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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』2010/04/30 UP 放送日時

国宝トレジャーハンティング

トレジャーハンティングは、ビデオゲームでもテーマパークでも特に人気のあるジャンル。もちろん映画でも、海底に沈んだ財宝だの、海賊が隠した宝箱だの、様々な宝探しをスクリーンで繰り広げてきた。地図の謎を解きながら宝を探す、という趣向は、19世紀末に出版されたスティーヴンソンの子供向け冒険小説<宝島>あたりが発祥の地ということになるだろう。謎を解くスリルと、秘境(絶海の孤島)へ宝を探しに行くアドベンチャーとが合体した娯楽の王道である。ここに考古学というアイテムを加え、冒険する考古学者を誕生させて、トレジャーハンティング業界(というものがあるとして)に新風を吹き込んだのが、スピルバーグのインディ・ジョーンズ・シリーズだった。そして、インディ・ジョーンズをヒントに生まれたのが、ダン・ブラウンの宗教象徴学者ロバート・ラングドン教授であり(<ダ・ヴィンチ・コード>の中に“ハリソン・フォードに似ている”という記述がある)、さらに、秘密結社陰謀説と世界遺産を合体させて“宝探し”をするというダン・ブラウンのアイデアを、アメリカ限定にしたのがジョン・タートルトーブの『ナショナル・トレジャー』だった。主人公の冒険歴史学者(ハリソン・フォードとトム・ハンクスを足して2で割ったらニコラス・ケイジになるかどうかは別として)の名前がベン・ゲイツと聞いたとき、思わず、1994年にダ・ヴィンチのノート(レスター手稿と言われる)を3億8千万ドルで落札したビル・ゲイツを連想したのは私だけではないだろう。ゲイツ→ ダ・ヴィンチ→ダン・ブラウン→インディ・ジョーンズ、トレジャーハンティング業界は意外に狭いようだ。
 
さて、今回のトレジャーハンティングの発端は、独立戦争から100年ほど時代を下った南北戦争直後。リンカーン大統領の暗殺者ジョン・ウィルクス・ブースは仲間を連れて、暗号解読の才能を持つトーマス・ゲイツに会い、日記に書かれた暗号を解くよう依頼する。
 
しかし、トーマスは彼らがゴールデン・サークル騎士団という南軍寄りの過激派であることを見抜き、日記のページを焼く。時は下って現代。ベン(ニコラス・ケイジ)、パトリック(ジョン・ヴォイト)の親子は、南軍の軍人を祖先に持つ謎の古美術商ミッチ・ウィルキンソン(エド・ハリス)から、焼け残ったページを見せられ、二人の祖先のトーマス・ゲイツはブースの野望を打ち砕いた英雄などでなく、彼もブースの仲間だと主張される。親子は曾曾祖父トーマスの汚名を晴らすため、日記の暗号を解き、隠された財宝(今回は黄金のピラミッド)を発見する冒険に旅立つ。
 
今回も、前作で独立宣言書を盗み出す際に出会って恋人になったアビゲイル・チェイス博士(ダンアン・クルーガー)や、天才ハッカーのライリー(ジャスティン・バーサ)ら、お馴染みのメンバーが再登場。そこに、ベンの母エミリー・アップルトン博士(ヘレン・ミレン)や、アメリカ大統領(ブルース・グリーンウッド)らが新たに加わり、豪華な俳優陣で脇を盛り上げている。ヘレン・ミレンは、アカデミー賞を獲得した『クィーン』のエリザベス女王役が記憶に新しいイギリスの名女優で、ベンVSアビゲイル、パトリックVSエミリーという二代に渡る“夫婦喧嘩”での演技合戦は見物。しかし、私が注目したのは大統領を演じたブルース・グリーンウッドだ。特に気に入っているのはビロードのような彼の声だが、端正な顔立ちはもちろん、ロジャー・ドナルドソンの『13デイズ』でケネディ大統領を演じていることもあって、いかにもディズニー映画が理想としそうな大統領像だなと思った。この際、彼がカナダ人であることは不問に付しておこう。
 
結局、トーマスの名が日記に書かれていた理由が最後までわからなかったり、フランスの自由の女神像はリュクサンブール公園にはないこと(16区のグルネル橋の真ん中にある)など、相変わらず突っ込みどころ満載の国宝ハンティングだが、有無を言わせぬスピードで強引に宝の山まで引っ張っていく爽快感はいい。パリの自由の女神、バッキンガム宮殿、ホワイトハウスの大統領執務室(オーバルオフィス)、ラシュモア山などの名所も見学でき、火山灰の心配をせずに、ちょっとした海外旅行気分も味わえる、お得な娯楽作品である。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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