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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』2009/06/26 UP 放送日時

『ハムナプトラ』を楽しく見るためのトリビアあれこれ

夏だ、アウトドアだ、アドベンチャーだ! というわけで、今月は砂漠のアドベンチャーに古代エジプトのミイラの復活という超常現象を織り交ぜた楽しい冒険活劇『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』を取り上げて、“知らなくても生きていけるが、知っているとちょっと自慢できる”、『ハムナプトラ』トリビアを幾つか。
 
その1)ミイラ再生
『ハムナプトラ』の原題は“The Mummy”といってミイラのこと。実は『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』は1932年製作のカール・フロイントが監督した『ミイラ再生』(原題The Mummy)のリメイクなのだ。オリジナル版ではフランケンシュタイン役者として一世を風靡したボリス・カーロフがミイラから再生する高僧イムホテップを演じた。監督のカール・フロイントはF・W・ムルナウの『最後の人』やフリッツ・ラングの『メトロポリス』といったドイツ表現主義映画の傑作の数々の撮影監督を務めた人で、ハリウッド移住後はテクニカラーの開発にも協力した。
 
その2)『ハムナプトラ』って?
邦題に使われた“ハプナプトラ”とは、映画の中では“生者の都”テーベに対する“死者の都”とされるが、これはまったくの作り話。テーベの方は確かにエジプトに実在するが、死者が葬られた墓所といえば“王家の谷”のことで、ハムナプトラという名の町はエジプトには存在しない。実は、エジプトではなくインドにある。19世紀半ばに鉄道建設中のイギリス人技師が偶然掘り当てた紀元前19〜17世紀の古代都市の名なのである。
日本の配給会社の予想に反し(?)、思わぬ大ヒットでシリーズ化されてしまった『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』だが、2作目の『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』ではまだエジプトのミイラが復活していたからよかったものの、3作目の『ハムナプトラ3/呪われた皇帝の秘宝』でついに舞台が中国へ移動、秦の始皇帝を思わせる皇帝のミイラが復活するに及んで、シリーズは“ハムナプトラ”とは何の関わりも持たなくなってしまった。この後さらに続編が作られ、エジプトとはまったく関係のない、マヤやインカといった古代文明のミイラが続々復活することになったら、“ハムナプトラ”を邦題に使ったことを日本の配給会社は激しく後悔することであろう。
 
その3)1923年
映画『ハムナプトラ』は、1923年に、遺跡となったハムナプトラに駐屯しているフランスの外人部隊をトゥアレグ族が襲撃し、アメリカ人隊員のリック・オコンネル(ブレンダン・フレイザー)が急きょ隊長に昇格して闘うところから始まる。1923年といえば、ハワード・カーターによるツタンカーメン王墓の発掘の翌年であり、発掘のスポンサーだったカーナヴォン卿が謎の死を遂げ、“ツタンカーメンの呪い”が始まった年でもある(ちなみに、カーナヴォン卿の娘の名は、映画と同じエヴリンという)。
また、1922年に独立したはずのエジプトになぜフランスの外人部隊が駐屯しているのか不思議な感じがするが、フランスとイギリスは昔からエジプトを植民地化しようと争ってきたという背景がある。18世紀末のフランス軍による侵攻の際、ナポレオンが連れていった学術調査団がロゼッタ石を発見し、シャンポリオンによるヒエログリフの解読とエジプト学の誕生へつながっていくのだ。ちなみに、フランス軍はこのときにルクソール神殿からオベリスクを持ち出してパリのコンコルド広場の中央に設置することには成功するが、ロゼッタ石の方はイギリス軍にあっさり奪われてしまう。現在ロゼッタ石が大英博物館に収蔵されているのはそのためである。
 
その4)主役の二人
シリーズを通して主役のリックを演じるブレンダン・フレイザーは1968年12月3日生まれの40歳。192センチの長身とマッチョな肉体の持ち主で、童顔を買われて、『原始のマン』の生き返った原始人、『ジャングル・ジョージ』のゴリラに育てられた青年といった、ちょっとおバカな役でコメディ・センスのいいところを見せていた。よく響くバリトンの声の持ち主で、歳を経て、渋みを増し、大人の男の役が似合うようになったところ。アクションもコメディもこなさねばならないリックは、彼のはまり役と言えるだろう。
 
一方のレイチェル・ワイズは1971年3月7日生まれの38歳。父親がハンガリー人なので、本当はワイズではなくヴァイスと発音する。ケンブリッジ大卒の才媛で、アクションからシリアスな演技まで何でもこなし、2005年には『ナイロビの蜂』でアカデミー助演女優賞を受賞。現在公開中の『レスラー』の監督ダレン・アロノフスキーと、『ファウンテン 永遠に続く愛』に出演したのがきっかけで交際し、アロノフスキーとの間に1児があるが、まだ正式に結婚していないのは彼女が根っからのフェミニストだからかも。勝ち気で男勝りのエヴリンは、案外彼女の素に近い役かもしれない。なお、シリーズ3作目でマリア・ベロに役を譲っている。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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