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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『ターミネーター』2009/06/12 UP 放送日時

歳月に耐えるものと耐えないもの。

カンヌ映画祭の授賞式売りのにプレゼンターとして登場したイザベル・アジャーニを見て、ギョッとした人は私一人ではないだろう。アジャーニといえば、10代でトリュフォーに見いだされて『アデルの恋の物語』で主演して以来、フランス映画界屈指といわれる美人女優である。彼女だけが『可愛いだけじゃダメかしら』なんて映画まであった。その神々しいまでに美しかったアジャーニのまさかの変貌!(ムービープラスの授賞式生中継を見逃した方のために補足しておくと、全体的に一回り太目になり、厚化粧した彼女は、まるで“アジャーニによく似たドラッグ・クイーン”のようであった)。彼女が97年にカンヌの審査員長を務めた際、顔が能面のように見えたので識者に聞くと、“アメリカでリフティングの手術を受けたからよ”とのことだった。あんなに美人なのに顔をいじるなんて、とその時は思ったが、それから12年後の姿が“あれ”である。アジャーニは確実にマイケル・ジャクソンと同じ道をたどっている。
 
 さて、『ターミネーター4』を皮切りに新たなシリーズが再開されようとしている今、ジェームズ・キャメロンが創造した元祖『ターミネーター』を改めて見てみると、将来シリーズ化できるすべての要素が詰め込まれた、エポックメイキングな作品だったことがよくわかる。年月を経ると古臭く感じる映画も多いが、さすがにキャメロン、発想の面白さは群を抜いている。
 
元祖『T1』は、核戦争後の未来に機械対人間の最終戦争が起こり、機械側が殺人サイボーグ“ターミネーター”を1984年の過去に送り、鍵となる人物を殺して禍根を断とうとする。が、人間側も人間を守るための兵士を派遣し、ターミネーターと対決する、というプロットである。キャメロンはここに“タイムトリップの際には人もサイボーグも何も身につけることができない”という条件をつけた。したがって、全裸で過去に戻った二人は、衣服と武器を現地調達して戦わねばならない。このアイデアは、おそらく前作『殺人魚フライングキラー』で苦渋を舐めたキャメロンが、潤沢な予算を得られなかったためにひねり出したものだろうが、すべてを1984年に限定したことが歳月に耐える要因の一つとなったと私は思う。リンダ・ハミルトンの髪型やテクノ調の音楽に、バブルに向かって突き進んでいったあの頃の面影が残っているが、アクション・シーンには古びた感じが一つもない。なまじ未来の武器など出さなかったからこそ、古臭さから逃れられたのだ。そのうえ、予算のない分、しっかり頭と手間を使っている。シュワルツェネッガー演じるサイボーグが、戦いを経るにつれ、まず眉が焼け落ち、ついで片目が潰れ、腕が骨格となり、と、次第に痛んでいく描写は、サイボーグが液体金属化してからは見られない細やかさだし、特撮ももちろん高価なCGではなく、操り人形式だったり、ストップモーションアニメ式だったり、もっぱら人の手を使った手作り感のあるところがいい。
 
 このように、作品としては立派に歳月に耐える『ターミネーター』だが、スタッフ、キャストの方に目をやると、一転、しみじみとした思いが込み上げてくる。まず監督のジェームズ・キャメロンだ。彼は、この作品の大ヒットで『エイリアン2』の監督に抜擢されて見事大任を果たし、『ターミネーター2』を経て『タイタニック』でついに“世界のキング”となるも、その後は低迷。悪玉シュワルツェネッガーは一躍人気者となって善玉に転身、スーパースターとなって政界入りし、今やカリフォルニア州知事である。一方、二枚目マイケル・ビーンは中年になって美貌が衰え、今やB級映画の脇役ばかりだ。
 
25年の歳月は生身の人間にとっては本当に長い。けれども映画は不死身である。ジョン・コナーはエドワード・ファーロング(T2)からニック・スタール(T3)を経てクリスチャン・ベイル(T4)となり、カイル・リースはマイケル・ビーン(T1)からアントン・イェルチン(T4)にリニューアルした。痛みやすい部品を取り換え、その都度再生できる映画は、ある意味、人間よりはサイボーグに近い存在なのである。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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