吹替王国

#11 声優:山寺宏一

2017年6月某日。今回収録したアテレコおもしろCMは、「ジム・キャリー『マスク』編」、「マイク・マイヤーズ『オースティン・パワーズ:デラックス』編」、「山寺宏一登場編」の3バージョン。

そして、吹替王国2周年を記念して、特別番組の収録も行いました。ご本人が語る映画吹替の魅力とは?さらに特別ゲストとして、『マスク【地上波吹替版】』でも共演し、公私共に大好きと話す声優・大塚明夫がまさかの登場!いったいどんな話が飛び出すのか、お楽しみに。

【対談】山寺宏一さん×大塚明夫さん

 この様子は、2017年8月20日 20:45~放送します。
「おかげさまで建国2周年! 吹替王国SP #11 山寺宏一 特別ゲスト:大塚明夫(後編)」

階段の踊り場で二人で円陣組んで「やってやろうぜ」って

ふたりの出会いについて

山寺(以下、山):明夫さんと最初に仕事したのは、なんの作品だったかな。

大塚(以下、大):確か「機甲猟兵メロウリンク」っていうアニメだよ。山ちゃんは「ボルフ」っていう役で出たんだけど、「すげーなこいつ!」って思ったのを覚えてる。

山:明夫さんはレギュラーで、そこに俺がお邪魔したんだよね。俺はその前に、こまつ座の舞台で明夫さんを見てるんだよ。

大:その話をしてくれたのは覚えてる。

山:長い付き合いになるよね。「それいけ!アンパンマン」で共演することが多かったね。

大:アンパンマンでは会えるけど、他では滅多に会えないね。

山:明夫さんが他の仕事でいないときは、俺が明夫さんのモノマネをして台本を代読してるんだよ(笑)。

大:お世話になってます(笑)。

山:若い頃は外国映画でもコンビを組んだりしてたね。最近は少なくなったけど。

大:本当に少なくなった。でも、去年『48時間』の再録で一緒だったね。あれ以来、外国映画の現場では会ってないよね。スタジオ収録でも舞台でも思うんだけど、山ちゃんと一緒になると1+1が3になる。それを肌で感じられるのが楽しいんだ。

山:先日、明夫さんと二人でやった朗読劇の中にもそういう話がありました。一緒にできたのが本当に嬉しかった。こういうのを芝居のキャッチボールっていうんだなって。

大:お客さんの反応を見ながらやって、息が合うと楽しいんだよな。

山:俺ね、吹替えって、もともとオリジナルがあるんだから、会話の間とか言葉のキャッチボールとか関係ないんじゃないの?って思ってた。明夫さんはどう思う?

大:間があけばあくほど、次に出る音は低いのが、たぶん正しい法則。間がなくて、話にかぶせて何かを言う場合は、高い音が出ているはずなの。そこのちょうどいい音程でセリフを言うと、あたかもいま生まれた間のような芝居になるんだよね。

山:なるほど!どういう音でセリフが出るかによって、その間がどう埋まるかっていうことか。すごいね、初めて知った!さすが「声優魂」を書いている人は違うな~。

大:やめろよ(笑)

『48時間』について

山:『48時間』を最初にやった時のことだけど。

大:あの時は怖かったな~。

山:明夫さんがニック・ノルティで僕がエディ・マーフィ。この二人は、それまで色んな先輩がやっててね。それを、俺らでテレビのゴールデンタイムでやることになって。

大:すごい出来事だったよね。

山:(声優キャストの中で)一番若い二人がメインをやるっていうね。

大:階段の踊り場で二人で円陣組んで「やってやろうぜ」って。そういう気持ちを、今の若い人も持っててくれてるといいんだけどなって思う。

山:そういえば、『48時間』の放送が終わった後に、僕らの声優仲間が「見たよ~、明夫さん素晴らしかった!向こうの人がしゃべってるみたいで!」って絶賛してた。俺も褒めてもらえるのかと思いきや、「難しいね、エディ・マーフィは・・・」で終了だったからね。膝から崩れ落ちたもん(笑)。

大:この話をするたびに、山ちゃんの心の傷をえぐるみたいで・・・(笑)。

山:でも、俺も「そうかもしれない」って思ったのよ。明夫さんは自分より年齢が上の人の役をやってるんだよね。

山:俺はエディ・マーフィと同い年だからさ。吹替えって年下をやるのは簡単だけど上をやるのは難しいって言われてるんだよね。

大:芝居なんかもそうだもんね。俺の場合はなぜかな・・・たぶん声の質のせいなんだろうな。

山:いや、声の質だけじゃないと思うけどね。あと、今は昔みたいにFIXしていないから、色んな俳優さんの声をやるチャンスは与えられるでしょ。そんな中で、「絶対この人にはこの声優じゃなきゃ」って言われたいと思うけど、俺なんかは個性がないから難しい。しょうがないんだろうけど。

大:山ちゃんは個性がないんじゃなくて、なんでもできちゃうから。

山:色々気にしすぎなのかなぁ。その役に近づけようとするのは、自分の個性だと思ってるんだけど。

これからの吹替えについて

大:文化として吹替えを考えたときに大切なのは、意識の問題だと思う。我々も含めて制作サイドにとって、何が一番大事なのかと思ったらお客さんなんだよね。お客さんの意識が上がっていくことによって、作品の完成度も上がる。相乗効果で文化として成熟していけるんじゃないかなってすごく思う。だから吹替えはやっぱり観てほしい。特に自分が出た作品は(笑)。

山:それはみんなそうだね。いくら吹替えが好きでも「あなたの作品は観てませんけど」って言われたくない(笑)。我々が吹替えの仕事をたくさんするためには、皆さんに吹替えの良さを分かっていただかなければいけない。そのためにいい作品を作らなければいけない。声優をキャスティングするにも予算が必要で、そのためにはいい吹替えを作って欲しいという声が挙がるかどうかが全てで。この吹替えは良かったとか悪かったとか、色んな意見を皆さんに言って欲しいですよね。


続きはオンエアをチェック!

2017年8月20日 20:45~
「おかげさまで建国2周年! 吹替王国SP #11 山寺宏一 特別ゲスト:大塚明夫(後編)」

【インタビュー】山寺宏一さん×大塚明夫さん

明夫さんに魅力を感じてもらえなくなったらダメ

お二人の対談が決定したときの、率直なお気持ちをお聞かせください。

山:明夫さんはいつ聞いたの?

大:オファーをいただいた時だよ。

山:最近?いやちょっと前か。スケジュール押さえなきゃいけないもんね。俺なんて、知ったのさっきだもん(笑)。サプライズだったんですよ!一人でインタビュー収録している時にいきなり現れたんです。最初、カメラを持ってるスタッフの方が入ってきて「ここですか?」って言うから「違うよ。何言ってるんだよ。いま収録してるのに」って思ったら、あれ?明夫さんがいるってなって(笑)。明夫さんが前に「吹替王国」に出ていることは知っていたので、単に様子を見にきただけかなと思ったら「この後、対談するんだよ」って言われて、嘘でしょって(笑)。びっくりしました。やられました。

大:うまくいって良かった。

山:でも嬉しかったです。本当に、公私共に大好きなので!仕事を一緒にする共演者としても好きだけど、人としても好きだし、なんでも相談できる人なんです。

対談を終えて、いかがでしたか?

大:「うまくいって良かったな」という思いでいっぱいで、胸が張り裂けそうです(笑)。一昨年、芝居で共演したり、先月も朗読劇をやったりしてまして、その度にお互いに「ちゃんとやってるんだな」と確認し合っているみたいなところがあるんです。だから、対談をしたから何かが変わったとか、「実はこうだったのか」とか、そういうのは感じないですね。

山:でも、たまに二人で話し込むと、皆さんがいるのを忘れて言っちゃいけないことを言いそうになって怖いですね(笑)。皆さんがいるということを、ちゃんと考えないと。

大:危なかったね。

山:さっきのお昼休憩の時なんか、本当にやばい話をしてましたよ(笑)。明夫さんにだったら言える、ということがいっぱいあるんですよね。吹替えでも舞台でもそうだけど、明夫さんに魅力を感じてもらえなくなったらダメだと思っています。まぁ、本当にだめな時があっても、明夫さんは気を遣って言わないでしょうけどね。いろんなことが、鋭い方なので。

大:いや、鈍いよ。

山:鋭いよ!それは思いますね。

『マスク』で共演された頃の思い出は、なにかありますか?

大:若かったなぁってことだなぁ。

山:明夫さんと一緒にやれてすごく嬉しかったです。若い頃からずっと一緒に、「お互い頑張ろう」って励ましあって切磋琢磨してやってきたので。

大:仕事が一緒だと燃えたよね。

山:うん。「明夫さんがいるんだからより頑張らなきゃ」っていう気になりましたから。『マスク』は最初にソフト版を録ったんだったかな?明夫さんと共演したのは2回目の収録の時だったのかもしれません。

大:俺はテレビ版のほうしかやってないからね。

お互いから見て、声優として今と昔で変わったなぁと思うところはありますか?

大:山ちゃんの芝居は、「深み」がどんどん増して「味」が出てきているよね。

山:その「味」とか「深み」を最初から持っているのは明夫さんですからね。今は、それが増していますよね。明夫さんは、僕が先輩の声優さんたちに思うところと近いんです。「それいけ!アンパンマン」でナガネギマンを演じていたり、色んなギャップも持ってるんだけど、それが作った感じがしないんですよね。なんでも自然に見えて。この世代でこんなに違和感なく吹替えをする人はほとんどいないと思います。どんな役でも、明夫さんは無理して作っている感じがひとつもない。自分の芝居をしているのに、自然と役にハマってしまうという。そういう人は、我々の世代ではほとんど他にいないんじゃないかと感じてしまいますね。

ご自身で変わったと感じるところはありますか?

大:「生き残らなきゃ」ってすごく思っていて、例えば今30歳だとしたら「30代に怠けていたら40代の頃には仕事がないぞ」と言い聞かせているところがあって。うちの親父(大塚周夫氏)は、亡くなるその日まで仕事をしていたんです。僕も、現役のまま逝きたいなっていうのがあって「いつまでも現役でいてやる!」ってすごく思っていました。だけど、いくら自分がそう思っていても、決めるのは周りの方々なので。そのために、絶対に向上心への燃料投下を怠ってはならないというのは思いますね。

山:自分でどう思っていても、お仕事をいただく身ですからね。いつまでも使いたいと思われるような存在でいなきゃな、と思います。最近は、改めて吹替えの難しさを感じています。何がいい吹替えなのかとか、自分の個性も分からないし。ただ、とにかくいただいた仕事を一生懸命やるだけです。年齢を重ねてきて色んな経験もしたし、見る目は肥えてきていると思うんです。昔は勢いで「俺、やれてるんじゃないか」みたいに思っていたものが、今は冷静に自分のことを見られるようになってきたし。周りの上手さもすごく分かるようになってきて、逆に自分のできなさ加減も自覚してきたり。「声の仕事だけはなんとか」とは思うけど、それも改めて難しいことだなって思います。かと思えば、「いやいや、俺はできる」って自信を持ったり、その繰り返しなんですよね。何かの仕事をきっかけに「おお、いいじゃん」って自分を励まして鼓舞したりね。今は、「やっぱり難しいな」っていうのをすごく感じてます。そういうものなんだろうなと思います。答えは出ないんでしょうね。なんにでも、「こんなもんだ」と思っちゃいけないと思います。

明夫さんのバトーが大好きですねぇ。「素子~~~!!」

お互いに印象に残っている出演作品がありましたら教えてください。

大:一緒に共演した作品ということで言うと、『青いドレスの女』っていうデンゼル・ワシントンの映画がありまして。それは山ちゃんがデンゼル・ワシントンをやってるんだけど、彼のしゃべり癖を本当に上手に掴まえていてね。これを見ちゃうと、よく俺にまわってくるなって思ってしまうほど。なんでそんなに印象に残っているかというと、自分がやった役(トム・サイズモア役)が気に入ってるからです(笑)。

山:(笑)。明夫さんのはなんだろうな、一番か・・・いっぱいあり過ぎるもんねぇ。

大:それはお互い様でしょ。

山:やっぱり、ニコラス・ケイジの映画とかをテレビで観ていると、自分がやった経験があるからこそ「ああ、明夫さんのほうが全然いいわ」ってなりますね。明夫さん、『ザ・ロック』もやったよね?俺もテレビ版でやったんだよ。明夫さんのを観て、「あー!こういう感じ!」って思ったもん。あと、『48時間』も良かったよね。

大:バディムービーはやりたいね。

山:うん。あとはやっぱり「攻殻機動隊」ですよね。

大:やりたくてうずうずしてるんでしょ(笑)。

山:バトーは明夫さん以外、絶対に考えられないよ!

大:そんなこと言ったら気の毒じゃない。

山:あ、そうだ。違うバージョンがあるんだ(笑)。ごめんなさい・・・。いや、色々あっていいけど(笑)。やっぱ明夫さんのバトーが大好きですねぇ。「素子~~~!!」っていう感じが(笑)。

大:「そんなに張り上げなくても」って思ったんだけど、「やってください」って言われたから仕方なくやったんですけどね。

山:あの時は、身近で見ていて作品に対する愛を、ひしひしと感じました。かっこいいだけじゃないんです。渋くて愛が込もっているんです。最高ですよね。クールで渋いのに、心の中にある愛が出てきているっていう。男だなって。

お互いがライバルだと感じることはあるんですか?

山:ありますね。デンゼル・ワシントン、ニコラス・ケイジと、いま話に出ただけでも二つ被ってますからね。

「負けたくない」という感情もありますか?

大:何をもって勝ち負けとするのか分からない世界なので、負けたくないというよりも、自分がやる以上は精一杯その役を全うすることが礼儀だと思っています。お互いが、自分の信じることをきちんと手を抜かずにやるということを一番やるべきことだと思うし。どっちが勝ったとかじゃなくて、「手を抜くなよ」ということじゃないかな。もし手を抜いているところを目撃したら、「手、抜いてたねぇ」ってお互いが相手に言うと思うんですよ(笑)。

山:言われないようにしないと(笑)。不思議なんですけど、他の声優、あ、今うっかり名前を出しそうになったけど(笑)、役が被っている人に対しては「絶対に負けたくない」と思うんだけど、明夫さんにはなぜだか思わないです。何でだろう?デンゼル・ワシントンもニコラス・ケイジも、ほかにもいくつかあると思うんだけど、相手が明夫さんだと「まぁ、そうだよな」って納得しちゃうんです。そういう人って、明夫さんが唯一の人かもしれない。仲がいいからかなぁ?でも、仲が良くたって仕事は奪い合いだしなぁ。

大:何でだろうな。考えてみたら、俺もそうだな。

山:でも、明夫さんがジム・キャリーやったら「え、なんで?」って思う(笑)。「それは取らないで!」って(笑)。

大:ジム・キャリー役は俺のところには来ないから大丈夫(笑)。お手上げです。手も足も出ない。

こんな映画でこんな役を演じてみたい、などはありますか?

大:声優って、武器がセリフしかない中で戦わなければならない仕事だから、例えば法廷で弁護士と検事としてバチバチにやり合うような作品を山ちゃんと一緒にやってみたいなぁっていうのはありますね。セリフをまくし立てる感じの。

山:そういうのもいいし、僕はコメディもやりたいですね。この間一緒にやった朗読劇は、表面上はすごく面白いんだけどちょっとブラックも入っているようなコメディで。笑いもあるんだけど、実はすごくシリアスでリアルな現状を抱えていたりっていうような。そういう作品があるなら、明夫さんと二人でがっちりやってみたいなと思います。

【インタビュー】山寺宏一さん

「ラッシュアワー」シリーズは、石丸博也さんとの掛け合いが絶妙

『マスク』のジム・キャリーを演じる上で、なにか工夫したところやテクニックを使いましたか?

山:ジム・キャリーが色んな面白い芝居をしているから、テクニックもなにも、彼と同じような芝居を同じような声でやれればいいなと思ってやりました。

山寺さんは、吹替える俳優を細かく研究して演じられるんですね。

山:皆さんそうだと思います。不自然に聞こえちゃいけないから、声質に関しては皆さんそんなに変えたりしないんでしょうけど。僕も、やれる範囲で不自然に聞こえないように意識しています。ジム・キャリーがマスクを被っていない素のところはそんなに作ってないです。マスクを被って変身した後に、彼が色々やるから僕もやっているだけで。同じような感じでやれば同じようになるかなと。彼は芸達者ですからね。歌って踊ってますから!彼が歌う「Cuban Pete」のシーンは「やらなくていいよ」と言われて残念でした。歌うところも吹替えたかったです。『マスク』って舞台にもなってるんですって!動画で見たことがありますけど、あれをステージでやっているなんてすごいですよね。僕は踊れないからできないけど(笑)。

『オースティン・パワーズ:デラックス』では一人で3役やられていますね。

山:実際にマイク・マイヤーズが3役やっていますからね。オースティンって、ちょっと自分に似てるなと思ってね。髪形をそっくりにして、メガネや衣装も全部揃えて形態顔マネっていうのをラジオの企画でやりました。映画『シュレック2』で来日したマイク・マイヤーズとキャメロン・ディアスに、その時の写真を見せたらすごく喜んでくれて。マイク・マイヤーズが「僕のハリウッドの事務所に写真を送ってくれ!」というので送ったんです。何の返事も来ませんでしたけどね(笑)。マイク・マイヤーズに「実は、オースティン・パワーズでずっとあなたを演じているんです!」って伝えたら「本当かい?嬉しいよ!」と言ってくださいました。長くやっていると、そんなこともあるんです。

「ラッシュアワー」シリーズは、石丸博也さんとの掛け合いが絶妙でしたね。

山:もうね、石丸博也さんのジャッキー・チェンはFIXの中のFIXですからね!石丸さんとは、僕の初めてのアニメレギュラーで共演させていただいているんです。「ボスコアドベンチャー」っていう作品で、中原茂さんが主役で石丸さんと僕のトリオの話だったんですよ。皆さん、全然ピンときていないでしょうけど。あっという間に終了したアニメです(笑)。僕はそれが初めてのレギュラーだったので、すごく覚えています。石丸さんのジャッキー・チェンは、ずっと子供のときから聞いていました。だからこうやってご一緒させていただけるとは思っていなかったので、すごく嬉しかったですね。その頃から、石丸さんにかわいがってもらっていました。クリス・タッカーは、体はゴツイですが声は高い。声を張っているときはいいんですけど、シリアスなシーンもそれでやらなければならないので、声質をキープするのが大変でした。不自然に聞こえないようにしつつ、喜怒哀楽をすべて表さなきゃならないからね。

昔ほどFIX声優がいない昨今の現状について、どう思われますか?

山:しょうがないですよね、そういう時代なんですから。声優は自分で選べないから。でも、逆にそれだけチャンスを与えていただいているということですよね。色んな俳優さんをやれるチャンスがある。その代わり、占有率はどんどん下がっていきますけどね。だから、痛し痒しじゃないですけど、良い面もあれば悪い面もあります。でも、一回は挑戦させていただけるわけだから。その後オファーが来ないのは実力不足だったり、その人に自分があまり合っていなかったんだな、という皆さんの判断ですからしょうがないですよね。チャンスを与えてもらった、ということだけで喜ばないといけないですよね。それに、ずっとFIXばかりやっていたら、僕はこんなに色々な役をやってないと思うんですよね。とりあえず、バラエティ番組で数だけ出すときにはとってもいいですよね。「僕、こんなにいろんな人の声をやってます!」「すごいですね~」なんてね。一回しかやったことないものまで偉そうに書いてますから(笑)。「この人も担当してるんですか!」なんて言われて、「うん、一回や二回だけなんだけど」とかね(笑)。実は他の声優もみんなそうなんだけどね(笑)。とにかく、一回はお試しみたいなものですよね。まぁ、商品化されたり放送しているんですから、そういう言い訳は本当はできないんですけど。確かにその後オファーが来ないというのは寂しいですけどね。

色んな俳優さんの作品ができるっていうのは利点ですよね。

山:そうですね。あと作品によって俳優も芝居を変えて雰囲気も違うから、それぞれの分野で得意な声優を使うということあるんでしょうね。僕は、これが得意というものもないし、自分でも分からない。とにかく与えられたものを一生懸命やるっていうことなんです。

芸術はモノマネから入って、後々オリジナリティが生まれてくる

さっき対談番組の収録でもおっしゃっていましたが、声優としての技量を上げていく上で、モノマネは有効なんでしょうか。

山:さっき明夫さんが言っていたのは、芝居のニュアンスの捕まえ方やセリフまわしであるとか、そういう部分だと思うんですよね。素晴らしいと思った演技のモノマネをするということであって、テレビのモノマネ番組で見るような声色をマネるということではないと思うんです。でも、何でもそうですよね。すべての芸術はモノマネから入って、後々オリジナリティが生まれてくるものだと思うので。誰だって最初はどうやっていいか分からないですよね。「英語を日本語にするってどういうことだ?」、「向こうの芝居を日本語でどう乗せるんだ?」って。だけど、先輩たちが目の前でやってくれる素晴らしいお手本があるので、それを見て学んでいくことが大切なんだと思います。

若手の声優に対して、何かお感じになることはありますか?

山:養成所も事務所も増えたし、声優はどんどん増えてはいますね。でも、それはいいことだと思います。対して、昔はそんなに声優の人数がいなかったのに、どうしてあんなにすごい“レジェンド”といわれるような人たちがたくさんいたのか、不思議なんですよね。今みたいに母数が多ければ、その中で切磋琢磨して上手な人が出てくればいいのかなって思います。でも、人数が増えることで一人ができる仕事がどうしても少なくなっちゃいますから、大変だなとは思いますね。
先輩方から聞いた話だと、昔は海外ドラマの仕事を平日毎日やって、週末に映画をやって、という具合に、とにかく毎日吹替えの仕事をしていたらしいんです。そうすると、作品が人を育ててくれるので経験値がどんどん上がっていくんです。今の若手の声優は、仕事のフィールドが広がっているとはいえ声優の数がその何倍も増えているから、いい作品で経験を積むということが難しくなっていると感じます。

山寺さんはアニメでも活躍されていますが、映画の吹替えならではの魅力や難しさを教えてください。

山:厳密にアニメと吹替えを分けることもできないんですけど、日本のオリジナルアニメの場合は、作品を作った方たちの想いや希望はあると思いますが、そのキャラクターに自分が初めて声を入れるのである程度自由にやらせてもらえます。
映画の場合は、オリジナルのお手本があるので手がかりが多いです。お手本の枠からはみ出して自分の個性を乗せるのは難しいことだと思います。吹替えに何を期待されているのかにもよります。「オリジナルに似せるんじゃなく、昔の先輩方がそうしていたように、声優としての味を出して欲しい」という視聴者もいるかもしれません。でも、僕には強い個性とかアドリブセンスとかがそんなにないと思っているので、なかなかそういった期待にお応えできないです。「日本語吹替えだということを忘れてしまうくらい自然だったよ」と言ってくださることが、僕にとって最高の褒め言葉ですね。

今までやったキャラでダントツ一番好きなのはDr.イーブル

「ラッシュアワー」シリーズと『オースティン・パワーズ:デラックス』の魅力を教えてください。

山:『ラッシュアワー』は、面白いです(笑)。とてもよくできた、バディ・コメディ・アクション・ムービーだと思います。ジャッキー・チェンとクリス・タッカーという絶対に合わなさそうな二人が面白いです。明夫さんと共演したバディ・ムービー『48時間』よりもギャップのある二人だと思います。その二人が繰り広げる、テンポのいいアクション・コメディです。『ラッシュアワー2』は、僕が大好きなチャン・ツィイーが出ているのが魅力です。

山寺さんが吹替えをしている中でここに注目して欲しいみたいなところはありますか?

山:『ラッシュアワー』は確か、石丸さんがちょっと歌うんですよね。さっき話した「ボスコアドベンチャー」というアニメで、中原茂さんと石丸さんと僕の三人で挿入歌をレコーディングしたんです。僕にとっての初めてのレコーディングでした。その曲の中に、それぞれ三人のソロパートがあったんですけど、石丸さんが「俺、歌なんか歌いたくねぇ!お前にやるから、歌え!」って言われて(笑)。僕は、「ここは石丸さんのキャラクターのソロパートなので・・・」って言ったんですけど、大ベテランの石丸さんにそう言われたら、ねぇ。もちろん、最終的には石丸さんが歌いましたけど(笑)。『ラッシュアワー』はそれ以来の石丸さんとのデュエットですので、そこを楽しんでいただきたいですね(笑)。

「オースティン・パワーズ」シリーズは本当にどうしようもなく好きで、未だに続編を作って欲しいと思ってるんです。『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』で終わっちゃったんですけどね。マイク・マイヤーズに「ずっと作り続けてください!」ってお願いしたんだけどなぁ(笑)。色んな映画のパロディが散りばめられていて、大好きです。『~ゴールドメンバー』にはトム・クルーズが出てるんですけど、その声もやらせてもらいました。本当にあのノリいいですよね!バカだな~って。でも、すごくセンスが良くてキャストも豪華で。吹替えもすごく大変でしたが、楽しんでやらせていただきました。今まで自分がやった色んなキャラクターの中でも、ダントツで一番好きなキャラクターはDr.イーブルなんです!だから、Dr.イーブルに注目して欲しいです。ちなみに、2位はファット・バスタードです!これだけたくさんやってきた中で、1位と2位のキャラが「オースティン・パワーズ」のキャラってね(笑)。でも、本当にDr.イーブルをやっている時は楽しくて仕方ないんです。どうしても小指が立っちゃいますよ(笑)。昔、「おはスタ増刊号」でDr.イーブルの格好をして芸人のペナルティさんと一緒に面白対決企画をやりました(笑)。あ、でもこれ権利許諾とってなかったかもしれないので、言わないほうがいいかな(笑)。

最後に、放送を楽しみにしている視聴者へのメッセージをお願いします。

山:「吹替王国」という企画に出させていただき、嬉しく思っております。なかなか自分がやった作品に自信が持てないんですが、今回放送する4作品は本当にお気に入りの作品ばかりで、とにかく自信を持ってオススメできるとっても楽しい作品ばかりです。ぜひ、たくさんの方にご覧いただいて、映画の楽しさと共に吹替えで観る楽しさを味わっていただければと思います。よろしくお願いいたします!

作品詳細

2017年8月20日(日)16:45~ 
4作品+特別番組放送

プロフィール

山寺宏一(やまでら・こういち)

6月17日生まれ。宮城県出身。アクロスエンタテインメント所属。
85年声優デビュー。
アニメ「アンパンマン」チーズ役、ディズニー作品のドナルド・ダック、「アラジン」のジーニー役、「新世紀エヴァンゲリオン」の加持リョウジ役の声としても知られる。
外国映画ではジム・キャリー、ブラッド・ピット、エディ・マーフィなど数多くの俳優の吹き替えも担当している。
こども向けバラエティー番組「おはスタ」では18年半に渡りMCをつとめ、子供たちの朝の顔として人気を博した。

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