吹替王国

#10 声優:堀内賢雄

2017年4月某日。今回収録したアテレコおもしろCMは、「アイアン・ジーリング『シャークネード』編」、「ブラッド・ピット『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』編」、「堀内賢雄登場編」の3バージョン。

アニメでもゲームでも吹き替えでも、監督によって全然違う時代

── おもしろCMの収録を終えて、感想をお願いします。

大変楽しく演じました!勢いと思い切りが大切ですね(笑)。
『シャークネード』のアイアン・ジーリングは、「ビバリーヒルズ高校白書」のスティーブの頃からやらせてもらっています。僕自身はこのCMのような面白いタッチのものが大好きなので、張り切って楽しみながらやらせてもらいました。ただ、CMの中で「賢雄」と自分の名前が出てくるんですけど、何度も連呼するのは恥ずかしかったですね(笑)。

── アイアン・ジーリング主演の『シャークネード』は、「ビバリーヒルズ高校白書」から何年も経っています。演じる上で、何か意識して変えたことや、変わったことなどはありますか?

「ビバヒル」のスティーブは、明るくてお調子者で、そのくせ気が小さくてナイーブなところもあるっていうのが僕に似ているような気がします。その後「今度は主役だよ」と言われてやったのが『シャークネード』だったんです。結局シリーズで4作品収録しました。「ビバヒル」の頃は、「○○でやんす」とか「○○でありんす」とか、コメディみたいなキャラクターにされていたんですよ。この時のイメージのまま『シャークネード』でも多少おちゃらけて演じたら、監督に「賢雄さん、真面目にやってください」って言われて(笑)。だから、『シャークネード』は超渋いアイアン・ジーリングに仕上げています。

── 『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のおもしろCMで演じたブラッド・ピットはいかがでしたか?

ブラッド・ピットでふざけていいのかな、と思いました(笑)。僕はすぐに喜んでやっちゃうからいいんですけど(笑)。最近はブラッド・ピットもコミカルな役をやりますが、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のトーンで面白く仕上げるのは難しかったですね。監督に「ふざけてください」と言われたので、頑張りました(笑)。

── 賢雄さんといえば、「ビバリーヒルズ高校白書」や「フルハウス」など、海外ドラマも多くやられています。やはり洋画とは違うものですか?

ドラマのシリーズものは長く続きますが、この後どうなるか教えてもらえない場合が多いです。これから大活躍するんじゃないかと思っていたキャラがいきなり死んじゃったりね。予想がつかない分、我々もドキドキで演じています。徐々に自分の中でキャラクターが解明されていくので面白いなと思います。映画の場合は、当然エンディングが分かっていながらも、分かっていないように演技をする必要がありますね。

── アニメやゲームとの違いについても教えてください。

“演じる”ということに関しては、基本的には同じだとは思います。ただ、アニメだと「デフォルメしてください」と言われるものと、「洋画のようにリアリティをもってやってください」というものと、作品によってリクエストがバラバラなんですよね。ただ、ひとつ言えることは、コミカルなキャラクターが来たときに、洋画ではリアリティのある感じで三枚目を演じるんですが、アニメではありえねぇだろっていうくらいはじけちゃってもいい感じはすごくありますよね。ゲームに関しては、「洋画の感じで、あんまり膨らませないでやってくれ」と言われることのほうが多いですね。

25年位前は、お芝居では声を張れって言われて、「声を前に出せ出せ」としごかれて声を張る訓練しかしてきていないので、普通にやると「声を張りすぎだよ!」と言われて都度調整。「ぼそぼそとした感じでしゃべってください」と言われると「ぼそぼそって、どうやってしゃべればいいんだ」って(笑)。でもいざオンエアを見るとすごく綺麗な音になっているんですよね。アニメでもゲームでも吹き替えでも、監督によって全然違う時代になりましたよね。

大事なのは、馴れ合いにならないこと、巨匠にならないこと

── 声優としてのお仕事を最初にやったのはいつ頃ですか?

いま59歳なんですけど、24~25歳くらいだったと思います。アニメでは、「魔法のプリンセス ミンキーモモ」のアナウンサー役が最初です。あとはTBSの「アンドロメロス」という円谷プロ制作の特撮もので、アンドロウルフという役をオーディションで勝ち取りました。ところが下手くそでね~。特撮だから、口があるようでないようなものだからまだOKだったんですけど・・・。その後、アニメのデビュー作が「サイコアーマー ゴーバリアン」というテレビ東京の作品で、ハンス・シュルツという役なんですけど、これが悲惨だったんですよ。できなくて・・・。音響監督の岩浪さん(岩浪美和)によく言われていました。「君のおかげでどれだけ時間がかかってると思ってるんだ(笑)」って。あの時代はテープでしょ。作業が大変で。その辺りから、「この世界で必ず何とかしてみせる!」という思いが強くなって、現在35年くらい経ちました。

── 洋画のデビューはいつですか?

ロナルド・レーガン主演の『バファロウ平原』です。30年以上前ですよね。だって、レーガンがまだ役者をやっていた頃の作品ですから!僕は端役でした。

── 今回「吹替王国」で賢雄さんが特集されますが、どんなお気持ちですか?

嬉しいですね。地道に階段を上がれば、こうやって特集まで組んでもらえるんだなって。ただ、僕の場合は、まわりの人や監督に恵まれて、上手くないのに必ず使ってもらえたというのが大きいです。当時は日本語吹替版の監督も、「○○組」っていう感じで座組みを作ることがあったので。当時はお酒を飲む監督も多かったし、野球好きの人もいたし、飲み会みたいな場にはいつも顔を出していました。でも、そこでも「下手くそ」って怒られていましたけどね(笑)。昔は「大きい役に抜擢された!」となってもなかなか結果を出せなくて・・・。その次は小さい役になってしまい、でも次はまた大きな役につかせてもらったりと・・・そうやって、喜びを感じた時代でもありました。

── 長年の活躍の中で、大切にしていること、変わらないものを教えてください。

一番大事にしていることは、馴れ合いにならないということと、巨匠にはならないということです。長くやっていると、どうしても「俺が先輩だ」と傲慢になりがちだけど、そういうのはいらないです。キャリアがあると、色々勝手が分かるようになったりはするかもしれないけれど、芝居というものはそれとはまた全然別のものだと思うので。それから、年齢的に味わいが出てくるのと同時に口が回らなくなったり苦労することもあるし。与えられた役を真摯に受け止めて、若いときと同じように喜びを持ってその役を魅力的に演じられるかどうかしかないと思います。若い人が、どれだけ気持ちを役に乗せられるかと戦っているのを見ると、一生懸命さが伝わってきて嬉しいですね。何年もやっていればすべての人がうまくいくなんて、そんなことはないですからね。ただ、年齢が上がると労わってはくれますけどね(笑)。そういう喜びはあるけど、演技的なものでキャリアがあるからいいいなんて、全然感じたこと無いです。みんな同じですね。

── 具体的に、どうやって役柄のイメージに近づけていくんでしょうか。

いいことを聞いてくださいました(笑)。人間だから、「そんなこと言われても分からない」と思う時もあるじゃないですか。そういう時に、カチンときたら終わりですね。冷静に受け止めて、とにかくやってみることが大切。声色を変えたりとか、小手先でやるのではなく、作品に対する自分の気持ちが伝わるようにしてみると意外といけるなと思います。監督にダメ出しされて恥ずかしいとか、そういうメンタルの部分は本当に邪魔になってきます。特に、若い頃はそういう気持ちが強かったけれど、年を重ねた今は冷静に「何度でもやりましょう」と言えるようになりました。それが年を取って唯一良かったところかな(笑)。あとは、演者だけではなく、スタッフの皆さんひとりひとりが「キャラクターはこういう感じにしよう」と決めていたり、物作りというのはたくさんの人が関わっているので「俺はこうだ」と自我を通すだけではうまくいかないと思います。みんなで作っているんだ、というのはすごく感じます。

アドリブ合戦って内輪は楽しいんですけど大変

── 先ほどアイアン・ジーリングのスティーブがご自身に近いとおっしゃっていましたが、他に賢雄さんに近いキャラクターはいますか?

近いねぇ・・・。「宇宙船レッド・ドワーフ号」のリスターかな。あの単純さは、ちょっと似てるかなと思うところはありますね。あれはすごく面白かったし、親近感が湧きました。

── コメディのほうが演じやすいですか?

演じやすいというか、好きですね。人が笑ってくれたり、間がうまくハマったときはすごく楽しいなと思います。コメディって意外とみんなやりたがるけど、できる人少ないじゃないですか。だから、少しだけ優越感に浸っちゃうんです(笑)。大師匠の羽佐間道夫さんとかを見ていると「うわぁ、勉強になるな~」と思います。

── 最近はアドリブが少なくなったとも聞きますが、賢雄さんはアドリブはされたりしますか?

僕は人生でアドリブを入れたのは「危険戦隊デンジャー5 ~我らの敵は総統閣下~」だけなんですよ。「ビバヒル」の時も「賢雄さん、ダメだよあんなに台本変えちゃ」と皆さんに言われるんですが、実はあれ台本通りなんですよ。声優になりたての頃の先輩は怖くて、台本を修正するとすごく怒られたんです。アドリブを入れてくださいというリクエストがあれば努力して入れますけど、そうじゃないものは本当にいじらないようにしています。それを、どれだけアドリブを入れているように見せるかと言うのは自分の喜びだったりするんですけど。結構真面目なんですよ(笑)。

── 「危険戦隊デンジャー5 ~我らの敵は総統閣下~」で初めてアドリブをやってみて、いかがでしたか?

難しい!アドリブ合戦みたいなものって内輪は楽しいんですけど、それを受ける側は大変なんですよね。ライブでやるのはいいけど、あの時はアドリブの難しさを感じましたね。反省点の一つとして、のべつ幕無しアドリブを入れちゃダメだということは学びました。いまだに勉強になることはいっぱいありますね。

── また機会があればやってみたいですか?

そうですね、企画もすごくいいし、作品的にも面白くなるんですよね。ああいうのはライブでやってみたいなと思いますね。事前にお客さんに台本配ってやってみたら面白いんじゃないかな。

── 若手にアドバイスなどはしていますか?

「声を作るな」と言っています。痩せているとか太っているとか、そういう見た目のイメージで声を作るんじゃなくて、キャラクターの性格からイメージを膨らませていくほうがいいよという話はしています。作った声ってインチキっぽく感じちゃうんですよね。例えばこの間も、うちの事務所の若手が50代半ばの男性の役をやったのですが、俗にいうおじいちゃんみたいな感じでしゃべったんです。その役者に言いましたね、「俺は59歳だけどそんなしゃべり方してないぞ」って(笑)。キャラクターの性格を掘り下げて作っていけば、その声が自然と出てくるはず。そのほうがよっぽどリアリティがあります。監督の要望で「もう少し低い声で」とかはあるけれど、あまりにもデフォルメして声を作るようなことは嫌ですね。

── 若い人を見ていて、声を作っているなと感じますか?

そうですね。やっぱりそれが一番楽だから。昔はね、年寄りは年寄りの人が演じていましたよ。だから、若い人が年寄りを演じる時にはそうなっちゃうのかもしれないんだけどね。でも、だからこそあえて、あまり作らないほうがこれから先長く残っていくためには大事。声を作るクセがついたら、演じるときには常に作るようになっちゃいますよ。そうするとやっぱり、長くはやっていけないでしょ。自分というものがなくなっちゃうから。「俺はこれだ」という売りは、声を作るところからは始まらない気がするんです。

── 声を作らないことで、役作りに悩んだりすることはないということでしょうか。

僕は本当に「器用じゃないな」と言われます。でも、それがちょうどいいのかもしれないですね。「賢雄さんは何もしないね」と言われたり、苦労することもあるのですが、変な色をつけないから色々な役をやらせてもらってるのかもしれないですね。そういう風に思って、ここまで来ています。

── 今回ムービープラスで放送される4作品のキャラクターは、具体的にどういう思いで演じられたんでしょうか。

ブラッド・ピットの『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』は、僕が彼を演じた最初の頃だったし、彼もまだ王子様みたいなかっこいい役を演じている時代だったので、「ハートの綺麗なヴァンパイア」みたいなものを意識したことを覚えています。
『人生、サイコー!』のヴィンス・ヴォーンも「ビバヒル」のスティーブみたいなキャラクターだったので、明るさ全快!っていう感じでトーンを明るくしました。決して声を作るということはしていません。これらを比べてみても、それほど声は違わないと思います。だから語尾の上げ下げとか、そういうのでだいぶ変わってきますね。

── ちなみに、映画は吹き替えでご覧になるんですか?

はい、吹替派ですね。

── 吹き替えの魅力とは?

字幕ではどうしても制限があるけど、吹き替えの場合は情報量が多いところですね。あとは、一斉にみんながしゃべって絡みがあるようなシーンでは、吹き替えのほうがダイレクトにセリフが入ってきますよね。
いまは翻訳家の方たちのレベルも上がっているし、いい日本語のセリフになっています。ちゃんとお芝居を分かっている人たちが書いていて、そこに色々な人たちが関わっていて、みんなでいいものを作っていこうという気持ちがすごく感じられます。そういうところがいいんじゃないかなと思います。

── 最近は、地上波での吹き替え放送も減ってきてしまいました。

地上波放送が減ってしまったのは残念ですね。だけど、劇場で吹き替えを上映する機会は増えたんじゃないですかね。僕が新人の時には、劇場用、テレビ用、ビデオ用、機内上映用と、同じ映画を月に4回くらい収録していたんです。時には演じる役が違ったりするんだよね。「あれ、この監督にはこう見られてるのに、この監督はこう見てるんだ」という発見があって面白かったです。1本の映画を4バージョン収録するということは、「俺、一生仕事に困らないかも」なんて考えていたけど、ある時から「1バージョンを使いまわせばいいんだ」ってみんなが気付いちゃって(笑)。いつかはそうなるだろうと思ってはいたけど、そういう時代が来るのはあっという間でしたね(笑)。

── 昔は、それぞれのテレビ局でもバージョンを変えて作っていましたからね。

そうそう、本当にそうなんですよ!すごいこだわりでしたよね。「うちの局ではこういう風に作るんだ」という情熱がすごかった。そういう意味では、吹替版が全盛期のいい時代にいさせてもらったし、先輩方の技もいっぱい見させていただいたし、楽しかったですね。

── 視聴者の方からも吹替えのリクエストをたくさんいただきます。色んなバージョンがある中で、「私はこのバージョンが好きなんだ」ということをおっしゃる方も多くて、みなさんそれぞれに思い入れのある吹き替えが存在しているようです。

そうなんですよね。僕の父親がアメリカのテレビドラマの「コンバット!」をいつも見ていて、子供の頃は隣に寝かされていたんです。その時に一番耳に焼き付いていたのが、サンダース軍曹を演じていた田中信夫さんの声なんですよね。この世界に入ってからお会いした人の中で一番感動したのは、田中信夫さんです。「サンダース軍曹の声の人だ~!」って。そういう思い出が、僕には染み付いているんですよね。「コンバット!」に別の役で出演している羽佐間道夫さんに、この間その話をしたら「賢雄、たぶんお前は間違えている。俺の声を覚えているはずだ」って言われて(笑)。「いや、全然違います。どこまで目立とうとしてるんですか」って言いました(笑)。

── ファンの皆さんのそういう思いについて、なにか感じるところはありますか?

ファンの方からは「見比べました」とか、そういうお手紙をいただいたこともあります。感じ方は色々だし、ファンの皆様は自由に感じていただければと思いますけど、自分としては堀内賢雄バージョンに自信を持ってやっているから、たぶん他の人のバージョンは見ないかな。俺よりうまいとか嫌だもん(笑)。

── 声優を目指すことになったきっかけを教えてください。

最初は音楽を紹介するDJの世界に行きたかったんです。そこから、声で演じるということをさせていただいて、師匠のたてかべ和也と一緒だったんです。でも、全然うまくいかなくてね。とにかく形になるまで必死にやってみようと思って、今がある感じです。声の仕事って、とにかく奥が深いですね。だから最初は何も伝えられなかったし、分からなかったですよね。「かっこいい声で読んでるだけじゃないか。もっと中身で伝えろ!」なんて言われて、「なんだよ、かっこいい声で読んじゃいけないのかよ」とか反発しながら(笑)。それから30数年間、色んなことを教わりました。今だにうまくいかないこともあるけどね。

── いまだに勉強されているんですね。

いやあ、「アホか!」って言われることはしょっちゅうありますけど「すご~い、賢雄さん!(拍手)」なんていうことは全然ありません!それが一生続くんだろうし、役者ってそういうもんだと思っています。逆に、「賢雄さん、完璧です。お帰りください」なんて言われたらいいんだか悪いんだか分かんない(笑)。だから毎回戦いです。僕、基本的には仕事を依頼されたら断らないですからね。嬉しくなっちゃうから。たまに「えー、こんなのできないよ」と思うものもあったりしますが、やってるうちに楽しくなる。「賢雄さん、もっと過激に!」なんて言われると、「うわぁ、俺もう60歳なんだけどな」とか思いながらもやってますよ(笑)。

── 最後に、視聴者の皆様へのメッセージをお願いします。

今回こういう機会をいただきまして、とても嬉しいです。また、たくさんの声優さんがいらっしゃる中で声をかけていただいて光栄です。先ほど収録したインタビュー動画でも、今までの人生や吹き替えの仕事をしてきた経験についてのお話もたくさんできて僕自身、すごく嬉しかったです。皆さんで映画や吹き替えを盛り上げていただけたらなと思っています。どうもありがとうございました!

次回予告

次回の「吹替王国」は山寺宏一さんに決定!
「吹替王国#11 声優:山寺宏一」は8月に放送予定です。

プロフィール

堀内賢雄(ほりうち・けんゆう)

7月30日生まれ。静岡県出身。
低音ながらも軽やかな独自の声質を活かし、洋画の吹き替えではブラッド・ピットやベン・スティラー、アイアン・ジーリングなどを担当。
実力派で有名で、吹き替えの他にナレーター・アニメ(「鬼平犯科帳」など)・ゲーム(「メタルギアソリッド」シリーズなど)でも活躍している。

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