吹替王国

#7 声優:樋浦勉

2016年6月某日。樋浦勉さんが今回収録するのは、「ブルース・ウィリス『シン・シティ』編」、「ジョン・マルコヴィッチ『RED/レッド」編」、「樋浦勉 登場編」の3バージョン。『RED/レッド』のジョン・マルコヴィッチは奇声や笑い声などを大声で演じるあまり、マイクの音が割れてしまうというハプニングも!

マルコヴィッチはひょっとこみたいな顔でさ

── まずは、「吹替王国」に樋浦さんが選ばれたことについて、ご感想をいただけますでしょうか。

弱っちゃったなぁと思いましたね。自分の名前が冠にあるじゃない、そんなの恐ろしくて逃げ出したいと思ってました。でも、業界を盛り上げるためには何でもやったほうがいいと思いまして。ありがたいですよね、嬉しく思ってお引き受けしました。
俺は順番は気にしないんだけどさ、取り上げるべき人は何百人といるわけだね。俺よりも功績を残している人はたくさんいるし。どうしてこうなっちゃったのかな(笑)

── 『RED/レッド』のジョン・マルコヴィッチはとても楽しそうに演じていらっしゃいましたね。

マルコヴィッチは「ワー」とか「ギャー」とかいろんな声を使っていい役だと思うから、自分でもやってて楽しいですね。百面相みたいな顔してやるんだよ、あの人はね。ひょっとこみたいな顔でさ(笑) いや、こんなこと言ってマルコヴィッチさんに怒られちゃうな(笑)

ハチャメチャな役を演じるっていうのは、結構難しいんだよね。訛ってみたり、まっとうな日本語じゃなくなる場合があるでしょ。「そのイントネーションはないんじゃないの?」って言われたりね。そこは、外れない範疇で自分がうんと羽ばたくみたいな。その時は楽しく思いっきりやらせてもらっています。

── 『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でロビン・ウィリアムズもやられていますが。

ロビン・ウィリアムズは、色んな役をやっててね。『フック』なんて二枚目風にやってる時もあるし、『レナードの朝』は、やってて非常に感動しましたね。自信のない医者の役だったから、滑舌悪くてペラペラしゃべらない。新しい治療法を発見した時に覚醒するシーンなんか面白かったですね。

ブルース・ウィリスらしい声を出しているわけじゃない

── ご自身で、やりやすい俳優さんはいらっしゃいますか?

リチャード・ドレイファスやジョン・マルコヴィッチはハマりやすいですね。ブルース・ウィリスやロバート・デ・ニーロは、作品によって、合うものを俺にオファーしてくれているんだと思いますね。
ブルース・ウィリスは一時期、俺のところに全部来ちゃったんだけど、本当はそういう扱いじゃない方がいいと思ったな。他の役者さんにしても、ブルース・ウィリスらしい声を狙って出しているわけじゃないんですね。「映画の中で存在している、そこにいる人」をいつも追いかけています。勉強させてもらってます。声だけで人物に迫っていく感じかな。もちろん、ある程度はその役者さんらしい声っていうのはあるんです。でも、コメディっぽい時もあるし、今回の『シン・シティ』みたいに根暗なおじさんみたいなのとか、ギャングの役の時もあるしね。彼は、なかなか名優で、俺たちが声でちょこっとやったくらいで簡単に追いつけるものではないですね。

── ブルース・ウィリスは『ダイ・ハード』が最初ですか?

『ダイ・ハード』は全部のソフト版でやらせてもらってますね。当時、テレビで放送する場合は、一度世に出たバージョンの声優をまた使うなんてテレビ局のプライドが許さなくて、やらなかったんですね。声優としてすでに人気のあった野沢那智さんでやったら、それが流行したんですね。村野武範さんも、二枚目の声で演じました。

とにかくシリーズ1作目の『ダイ・ハード』は、ぶっ飛んじゃうくらい面白かった!ジャンボジェット機の翼から飛び降りちゃって、本来なら死んじゃいますよ(笑) ホースを巻きつけて高いビルの上から飛び降りて、その反動で戻ってきて助かるなんて、「あ、そういうこともあるかもな」って思わせる。しまいには、首の後ろにピストルをガムテープで貼りつけるんだけど、あんなに汗かいててガムテープなんかでつくわけないんだよな(笑) でも納得させられるすごさっていうのかな、それはエンターテインメントとしてすごいなと。アクションものもカーチェイスものも、今までに色んな映画が作られているけど、この作品を超える作品は未だに少ないと思います。アクション映画というジャンルでくくれないですよ。「ダイ・ハード」というジャンルですよ!

── 面白くないなと思った時は、面白くなるように盛り上げたりはするんですか?

俺の場合はできないね。広川太一郎さんは面白いね。的を外してないんだよね。的を外しちゃうと、ドタバタ映画じゃなくても、全体でドタバタにしちゃえっていうこともあったかもしれない。でも、そういうやり方は俺には向いてないかな。逆にこれしかできないんだよな。

── 俳優と声優の仕事は、ご自身の中で切り替えたりしているんでしょうか。

声優は武器が声だけしかない。俳優はルックスやら表情なんかもあるから、やっぱり俳優の方が表現が豊かかもしれないね。あるいは、何もなくても通じちゃう。吹替えはオリジナルがあるわけだから、そのオリジナルに対応してちゃんと役者の言葉になればいいと思っています。

── 昔は、みんなで一度試写をして、そのあとすぐに収録というのがスタンダードだったそうですね。

映画館に行って観てきたものをすぐにやるんだよね。台本はあらかじめ読んできて、映像はその時に観るわけです。でも、映像を一度観たくらいじゃ「面白かった」とか「つまんなかった」とか、そのくらいしか分からないよね。台本を持ってきて練習してるだけ。
今は事前に準備ができるから、かえってやりすぎちゃう。俺なんかは気が小さいからね。観る度に見落としている部分が見つかったりすると、もっと観ておかなきゃって思う。でもどちらがいいかは演出家が決めるんだろうね、「お前は練習してきてるからつまんない」って思われてるかもしれないし。一方で、練習をたくさんしたからこそ分かってるってこともあるだろうし。ただ、残念ながら今は機械が発達しちゃってなぁ、困るなぁ(笑)

── 声優さんで、「この人はすごい」というような人はいますか?

みんな素敵なんですよ。でも好きな人は、もう亡くなっちゃったけど大塚周夫さんかな。明夫さんの親父さんですけどね。ガラガラ声で決していい声だとは思わないんだけど、チャールズ・ブロンソンの『雨の訪問者』という作品で共演させてもらって「こういうことができるようになったらいいな」と思いました。その頃俺は40歳手前くらいでしたね。
それから、ちょっと年齢が下になるけど、堀内賢雄さんとか山寺宏一さんとかは「上手だなぁ、あんなふうにできたらいいな」って思います。かっこいい声も出るし。俺はかっこいい声は出ないから(笑) でもじいさんになっても、俺は俺。そういうのがいいと思ってるんだけどね。

── 吹替えの魅力について教えてください。

吹替えはオリジナルがあるから、人物に憑依できるっていうのは楽しいです。北野武監督の映画に出ている時は、何をどう作ったらいいのか分からないんだけど、作ろうとしてもあまりいい結果は出ないんだよね。「そこにいるだけでいいんだ」って言われるけどね。そこには教養とか技術とか、人殺しの役なら人を殺せるような雰囲気を持ってないとダメだし、いるだけっていうのはなかなか難しいんでね。吹替えの場合はオリジナルをお手本にして、人物に迫るっていう。自分の心の中には善玉と悪玉の両方の魂があるじゃないですか。吹替えは、それをスケールアップしていく作業なんだけど、俺は吹替えというジャンルは好きですね。

── ご自身も最近は吹替えで映画をご覧になることが多いそうですね。

もうほとんど映画館で観たりはしないですね。情報量が多くて字幕じゃ追い切れないところがありますね。
あとは、素人さんなんかは「この人の声じゃなきゃ嫌だ」とかおっしゃいますけど、そんなことないよって言いたいです。日本は吹替えのレベルがアップしてると思うんです。ひとつの作品を複数の声優が吹替えていて、それぞれのバージョンが面白いと言われるような土壌が日本にはあります。アメリカとかヨーロッパとかにはないと思いますよ。

声優の仕事を始めてから45年

── 日本で吹替えの歴史は今年で60年です。

60年だってね。俺が声優の仕事を始めてから44~45年経つのかな。自分は主役ばかりやらせてもらって、本当にありがたくてラッキーでした。その代わり、叩き上げの声優さんたちに比べたら、数はこなせてはいないけどね。でも、俺は非常に感謝してるし、いい思いをさせてもらいました。

── 40年以上声優業をやられてきて、今もご活躍されていますが、長続きの秘訣は何でしょう。

仕事がない時でも脇目を振らずにやることですね。そうするとやっぱり求められますよ。そんなに甘い世界じゃないかもしれませんけど、そう思ってやってます。俺は、ちょっとだけ魚河岸で働いていたこともあるんだよ。でもこの仕事を続けさせてもらって、さらに年金をもらって助かってますよ。なんだかつまんねぇ話になっちゃったな。でも、生活感のある俳優だよ、俺は(笑)

── 声優を目指している人にメッセージをお願いします。

まずは滑舌。これは基本中の基本です。いい声を練って作ろうとかそういうことは思わないで、そこに描かれている人物ってどんな人物かな、ということを洞察できるとか、どういう風に演じたらその人物に迫れるかとか、そういうことを研究できる人になってもらいたいと思います。俺はあまりいい声じゃないから、こういう風に言うわけじゃないけどね。いい声のやつ嫌い!ちくしょう!(笑)
吹替えは声だけの仕事だけど、その人物に憑依できたらいいと思う。憑依できないようなつまらないものはやらなくていい!って俺は思ってるんだけどね。まぁ、与えられたらやるんだけどさ(笑) そういう憑依をどうやったらできるかっていうのは計算ずくでやってもできない。興味を見つけて迫り方を探せる人になっていただけたら、と思います。うまくまとまったな(笑)

── 最後に、視聴者に向けてメッセージをお願いします。

ジョン・マルコヴィッチ、ブルース・ウィリス、ロビン・ウィリアムズが演じてはいるけれど、その三人の声ではなくて、マーヴィンやハーティガンやショーンの声がどういう風に変わっていくのかということを感じてもらえると嬉しいし、それが俺の願いです。ぜひ楽しんでご覧ください。

次回予告

10月は森川智之さんの吹替作品を特集します!
トム・クルーズ、ユアン・マクレガー、ブラッド・ピットなどで有名な森川智之さんの吹替え作品が登場。
ぜひご期待ください。

プロフィール

樋浦勉(ひうら・べん)

1943年生まれ。青年座映画放送所属。北野武監督、主演『座頭市』にて、表と裏の顔を持つヤクザの頭領役を務めるほか、『龍三と七人の子分たち』ではステッキのイチゾウ役を演じ、東京スポーツ映画大賞にて助演男優賞を受賞。声優としても多くの洋画吹替に出演しており、ジョン・マルコビッチ、ブルース・ウィリス、リチャード・ドレイファスを務める。

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