映画の処方箋

Vol.221

『イット・フォローズ』

見終わった後の方が怖くなる、異色のホラー映画

 日本の夏休みは、お盆、肝試し、夏祭り、お化け屋敷とホラー・アイテム満載の季節。一方、9月が新学期のアメリカでは、夏休みはそれまでの学校生活に区切りをつける季節であり、出会いと別れ、ひと夏の体験という青春映画の設定にはもってこいの季節。アメリカ映画でお化けといえばハロウィンだが、目端のきくプロデューサーが夏休みに目をつけて以来、『ラストサマー』を始めとする“真夏の青春絶叫映画”が大盛況を迎えることになった。

 しかし、3年前に公開されて口コミでスマッシュヒットとなったデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の『イット・フォローズ』の場合は、主人公が高校生なのでジャンルとしては青春ホラー映画だが、絶叫はなく、心理的な怖さを主眼とした異色のホラー映画で、見終わった後の方がジワジワと怖くなる。

 舞台はアメリカのどこか郊外にある住宅地。高校生のジェイ(マイカ・モンロー)は最近付き合い始めた彼氏のヒュー(ジェイク・ウィアリー)と車でデートに出かけ、関係を持つ。ところが事が終わった後で、何かを嗅がされて意識を失う。椅子に縛り付けられた姿で目覚めたジェイに、ヒューは驚くべき告白をする、「性交によって呪いを移した、呪いが移ると“それ”が見えるようになり、いずれ“それ”に襲われて殺されてしまう。“それ”から逃れるには誰かと性交して“呪い”を移すしかない。ただし、移した相手が誰かに移す前に死ぬと、“呪い”が自分に戻ってくる」と。そのときからジェイは“それ”が自分を追いかけてくるのが見えるようになる。友人のポール(キーア・ギルクリスト)やヤラ(オリヴィア・ルチャルディ)の助けで、“それ”から必死に逃れようとするジェイだったが…。

デヴィッド・ロバート・ミッチェルは74年ミシガン州クローソンに生まれ、フロリダ州立大で学んだ。10年3月に長編デビュー作『アメリカン・スリープオーバー』がテキサス州オースティンのSXSW映画祭で審査員特別賞を受賞、続いて5月のカンヌ映画祭批評家週間で上映され、9月にはドーヴィルのアメリカ映画祭で審査員大賞を受賞して注目を集める。『イット・フォローズ』は長編2作目で、カンヌ映画祭の批評家週間で上映されて話題になり、翌15年に公開されるや世界中で話題を呼んだ。

主演のマイカ・モンローは、93年カリフォルニア州サンタ・バーバラ生まれ。プロのカイトボーダー(カイトを使用する、ウィンドサーフィンに似たスポーツ)の父親に習って13歳からカイトボードを始め、高校生のときにはドミニカ共和国北岸のカバレテに移住してみっちり修行し、プロのカイトボーダーになった。ティーンの頃からCMやTV、短編に出演。次第に大きな役を得て、13年にジェイソン・ライトマンの『とらわれて夏』でケイト・ウィンスレットと共演、翌14年には本作とアダム・ウィンガードの『ザ・ゲスト』の2本のホラー映画に出演して注目され(マイカ本人は、ホラーはあまり好きではないそう)、ローランド・エメリッヒの『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』のパトリシア役に抜擢された。プロのカイトボーダーと女優を両立させるのが夢という、新作が目白押しの24歳の有望株である。

 『イット・フォローズ』はこんな風に始まる。夏の終わりの夕暮れ、一軒の家から下着姿の娘が飛び出してくる。怯える娘の様子に驚いた隣人や父親に「何でもない」と繰り返しながら、車で逃げ出すところまでが1シーン1カット。忍び寄る夕闇を背景に、恐怖の始まりを予告する鮮烈なオープニングで、ここだけで監督の並々ならぬ力量がうかがえる。絶対にお見逃しなく。

ライター 斎藤敦子のプロフィール

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