映画の処方箋

Vol.219

『アウトロー(2012年)』

トム・クルーズ印の傑作ハードボイルド・ミステリー

 『アウトロー(2012年)』は、英国出身の推理作家リー・チャイルドの代表作<ジャック・リーチャー・シリーズ>の9作目を、トム・クルーズの製作・主演で映画化したハードボイルド・ミステリー。監督は『ユージュアル・サスペクツ』の脚本で注目されたクリストファー・マッカリー。

 ペンシルベニア州ピッツバーグ。アレゲニー川の岸辺を歩いていた5人の男女が無差別に狙撃される事件が起こる。犯人は対岸の駐車場から犠牲者を狙っていた。エマーソン刑事(デヴィッド・オイエロウォ)は、駐車場に残された薬莢と駐車料金の支払いに使われたコインから、陸軍の元スナイパー、ジェームズ・バー(ジョセフ・シコラ)を容疑者としてあぶりだす。逮捕されたバーは何もしゃべらず、出された紙に“ジャック・リーチャーを呼べ”とだけ書き付ける。エマーソンが調べると、リーチャーとは陸軍少佐で、憲兵隊で長年犯罪捜査官を務めていたが、2年前に退役して以後、アメリカ中を放浪している人物だった。エマーソンから報告を受けたロディン検事(リチャード・ジェンキンス)が途方にくれていると、そこにジャック・リーチャー本人(トム・クルーズ)が現れる。検事の娘で、バーの弁護を担当するヘレン・ロディン(ロザムンド・パイク)は、リーチャーに捜査の協力を頼む。バーを葬るために現れたリーチャーだったが、現場に行き、証拠の品を見て、バーの容疑に疑問を持つ…。

 原作者リー・チャイルドは本名ジェームズ・D・グラントといい、イギリスのグラナダ・テレビでテレビ番組やコマーシャルの製作を手がけていたが、95年にリストラされて失業したのをきっかけに小説家に転身、97年にジャック・リーチャーが登場する記念すべき第1作<キリング・フロアー>で小説家デビューし、ベストセラー作家となった。

 リー・チャイルドが創造した元憲兵ジャック・リーチャーは、アメリカ人の海兵隊員とフランス人女性の間に生まれ、ウェストポイント陸軍士官学校を卒業した生粋の軍人。2mに近い身長に100kgの体重という巨漢で、様々な格闘技と武器に通じ、狙撃能力、記憶力に優れたスーパーヒーローである。陸軍を除隊した後は、アウトロー7カ条(仕事を持たない、家を持たない、身分のわかる物は持たない、人と繋がらない、証拠は信じない、法律は無視、悪は許さない)を守ってアメリカ大陸を放浪しているという設定だ。孤独で寡黙な巨漢のリーチャーを“小柄”なトム・クルーズが演じたことで、映画は原作とは違う持ち味になっている。ちなみに、『アウトロー(2012年)』の中で、チンピラを倒して逮捕されたトム・クルーズが釈放されるときに所持品を返還する警官役を演じているのがリー・チャイルドである。

 ヘレン・ロディン役のロザムンド・パイクは79年ロンドン生まれ。02年にピアース・ブロスナンが最後にジェームズ・ボンドを演じた『007 ダイ・アナザー・デイ』のボンドガールに抜擢されて注目され、14年にはデヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。ロディン検事のリチャード・ジェンキンスは47年生まれの名脇役で、トム・マッカーシーの『扉をたたく人』で61歳にして初めてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされて話題になった。エマーソン刑事のデヴィッド・オイエロウォは76年イギリスのオクスフォード生まれ。ロイヤル・シェークスピア・カンパニーの舞台で黒人で史上初めて英国王を演じた人であり、『グローリー/明日への行進』ではキング牧師を演じている。注目は、名優ロバート・デュヴァルとドイツの映画監督ウェルナー・ヘルツォークという2人の大物の特別出演だ。体重を10kg落として役作りをしたというヘルツォークの意外なやる気にも驚きだが、デュヴァルとトム・クルーズのユーモラスな掛け合いは、楽しい息抜きになっている。

 この映画の見どころは、何と言ってもトム・クルーズにある。フラッシュバックを多用するクリストファー・マッカリーの脚本はハードボイルド物にしては凝り過ぎた感じがするし、演出にも不満が残る(続編の『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』でズウィックに監督が交替したのはそのためだろう)が、常に完璧に仕上げた肉体で、極力スタントを使わず、自分で何でもこなしてしまうクルーズには、いつも感心させられる。

ライター 斎藤敦子のプロフィール

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