映画の処方箋

Vol.216

『リピーテッド』

祝カンヌ70回記念賞受賞 ニコール・キッドマンのどこがそんなに凄いのか?

 5月のカンヌ映画祭で特別に設けられた70回記念賞を受賞したニコール・キッドマン。60回記念賞はガス・ヴァン・サントの『パラノイドパーク』だったし、これまでカンヌの賞は作品か監督を基本にしていたので、現役バリバリの女優が特別賞を受賞というのは異例のことだった。では、ニコール・キッドマンのどこがそんなに凄いか、『リピーテッド』を見ながら考えてみよう。

 主人公は私(ニコール・キッドマン)。ある朝、目覚めると隣に見知らぬ男(コリン・ファース)が眠っており、壁には自分とその男の写真が貼られていた。男は、自分は夫のベンで、14年前に結婚した。君は10年前に事故に遭い、20代以降の記憶をすべて失い、さらには新しい記憶も1日しか保たず、眠るたびに忘れるのだと説明する。夫が出勤すると、ドクター・ナッシュ(マーク・ストロング)という男から電話が掛かってきて、寝室のクローゼッドの靴箱にあるカメラを見ろと指示する。ナッシュは神経心理学者で、2週間前からクリスティーヌの治療を始め、前日の記憶をたどれるよう、カメラを手渡したと言う。カメラのスイッチを入れると、夫ベンを信じるなと訴える自分が映っていた。献身的に世話をしてくれる夫ベンの姿は虚像なのか、クリスティーンは必死で真相を探ろうとするが…。

 原作はSJ・ワトソンの英国製ミステリー<私が眠りにつく前に>。映画化にあたって、主人公クリスティーンの年齢をニコール・キッドマンに合わせて50代から40代に若返らせ、逆に若い医師ナッシュをマーク・ストロングに合わせて中年に変更している。こうして世代差がなくなった結果、クリスティーンをめぐる二人の男の関係が、よりシンプルな対立になり、まるで舞台劇を見るような緊迫感を生みだした。夫ベンを『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズでブリジットの本命の彼氏で堅物の弁護士マーク・ダーシーを演じてきたコリン・ファース、医師ナッシュを『シャーロック・ホームズ』のブラックウッド卿や『ロビン・フッド』のゴドフリーなどの冷酷な悪役を得意とするマーク・ストロングと、善悪を逆にしたキャスティングも絶妙だ。

 ニコール・キッドマンは1967年6月20日に両親が留学中のハワイで生まれ、オーストラリアのシドニーで育った。子供の頃から演じることが好きで、地元の舞台に立っていたが、プロの女優になることを決意し高校を中退、16歳で映画デビュー。すぐに頭角を現し、89年にサム・ニールと共演したフィリップ・ノイスの『デッド・カーム/戦慄の航海』がアメリカでスマッシュ・ヒット。この映画を見たトム・クルーズが『デイズ・オブ・サンダー』の相手役に抜擢し、90年にクルーズと結婚。以後スター街道をひた走り、現在に至っている。

 キッドマンの魅力は1m80の長身、スレンダーなモデル体型、透き通った肌と非の打ち所のない美貌にある。今年50歳になるが、20代と見紛う美しさを保っているのが驚異的である。だが、あまりに整った美しさは冷たさに通じる。『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』のような気品ある王女さま役もいいが、実は『ライラの冒険 黄金の羅針盤』のような悪女の方がよく似合う。

 欠点は、どこにでもいる普通の女性が演じられないこと。最近では『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』や、一足先にコリン・ファースと夫婦役で共演した『レイルウェイ 運命の旅路』などで、普通の母親や普通の妻役に挑戦しているが、よほど老けメイクでもしない限り、美しすぎて普通の人にとても見えない。IQ130以上という頭のいい人なので、その辺もよくわかって、いろいろな役に挑戦しているところが彼女の偉さでもある。

 その点、『リピーテッド』のクリスティーンは普通の妻でありながら普通じゃないところが彼女にぴったりだ。特に、ほぼ3人の登場人物のみでストーリーが展開する前半は、キッドマンの演技が冴え渡る。まず彼女の目を超アップで捉えたカットが凄い。血走った白目(どうやってあんな風に血管を浮き出させたんだろう?)と瞳孔の動きだけで画面を不安で覆い尽くす。ニコール・キッドマン、やはりただ者ではない。

ライター 斎藤敦子のプロフィール

前へ次へ

HOMEへ戻る