映画の処方箋

Vol.211

『チャッピー[アンレイテッド版]』

人と機械の境界のコペルニクス的転換

 『チャッピー[アンレイテッド版]』は、ギャングに育てられた警察ロボットの運命を描いた異色のSF映画で、普通のハリウッド・メジャー製SFとは一線を画した、意外な結末が人間と機械の未来を予感させる。

 舞台は近未来の南アフリカのヨハネスブルグ。多発する危険な犯罪を取り締まるために、軍事企業テトラ・ヴァール社が開発した警官ロボットが現場に投入され、成果をあげていた。開発者のディオン(デヴ・パテル)は、感情を持ち、学習能力を持つAIを開発し、警察ロボットをさらに進化させようとするが、ブラッドリー社長(シガニー・ウィーバー)に却下され、やむなく廃棄寸前のロボットを持ち帰ってAIを搭載しようとする。そこに、多額な借金返済を迫られ、ロボットを強盗に仕立てようとするギャング・グループのニンジャ、ヨランディ、アメリカ(ホセ・パブロ・カンティージョ)が現れ、誘拐されてしまう。ディオンにAIを搭載され、生まれ変わった警官ロボットは“チャッピー”と名付けられ、ニンジャをパパ、ヨランディをママと認識し、彼らから教育を受ける。一方、ディオンの同僚ヴィンセント・ムーア(ヒュー・ジャックマン)は、自分が開発した攻撃型ロボット“ムース”の採用が却下されたことでディオンを逆恨みし、彼と彼のロボットを陥れる計画を練っていた…。

 監督は、難民問題を宇宙人に託して描いた『第9地区』で世界中をアッと言わせたニール・ブロムカンプ。『チャッピー[アンレイテッド版]』の元になったのは、ブロムカンプが2004年に初監督した2分の短編『テトラ・ヴァール』だが、主人公が警官ロボットというところだけが共通で、後はすべて『チャッピー[アンレイテッド版]』がオリジナルである。

 チャッピーの声とモーション・キャプチャーを担当したのは『第9地区』以来の盟友シャールト・コプリー。ギャング・グループのニンジャとヨランディは、南アのラップ・グループ“ダイ・アントワード”のメンバーで、音楽も担当。ディオン役のデヴ・パテルは『スラムドッグ$ミリオネア』で注目されたイギリス生まれのインド人で、最新作『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』でアカデミー賞助演男優賞に初ノミネートされた。悪役ヴィンセントには「X-MEN」シリーズのウルヴァリン役で知られるヒュー・ジャックマン、ブラッドリー社長には「エイリアン」シリーズのシガニー・ウィーバーで、この二人はSF映画へのオマージュを兼ねたゲスト出演と言えるだろう。

 警官でロボットといえば、誰もが『ロボコップ』を連想するだろう。殉職した警官マーフィーをオムニ社がサイボーグとして再生した“ロボコップ”は、“チャッピー”のプロトタイプともいえる。オムニ社が開発した大型ロボットは“ムース”にそっくりだ。けれども、ロボコップとチャッピーには決定的な違いがある。ロボコップはマーフィーの生き残った能を転用したサイボーグ(人と機械の合体)であるのに対し、チャッピーは完全に人工頭脳(AI)の100%ロボットであるという点だ。『ロボコップ』から30年あまりで、AI(CG技術も)が飛躍的に進歩したことが根底にある。昨年、将棋界で将棋ソフト不正使用疑惑が起きて将棋連盟の会長と理事が辞任する騒ぎがあり、将棋ソフトが現役の棋士を脅かす存在になっていたことに驚いだが、実は碁の世界では、すでに人間の頭脳を凌駕しているという。それほどAIは進歩しているのだ。

 思えば、『ロボコップ』と『チャッピー[アンレイテッド版]』の間にはスピルバーグの『A.I.』があり、愛をプログラムされたロボット(可愛かった頃のハーレイ・ジョエル・オスメント)は、ギャングを親として慕うチャッピーの姿に重なる。けれども、『A.I.』から、さらに14年後の『チャッピー[アンレイテッド版]』の凄さは、ロボットが人間化するという今までの方向性とは真逆のエンディングにある。コペルニクス的転換とはこのことだろう。同じ軸上に、鬼才・押井守の傑作『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の世界がある。『チャッピー[アンレイテッド版]』と草薙素子は意外に近いところにあるのだ。

ライター 斎藤敦子のプロフィール

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