映画の処方箋

Vol.204

『最高の人生のつくり方』

ロブ・ライナー印の最高の人生とは?

 優秀な映画監督の作品には、画家がキャンバスに記すようなサインが見えるときがある。そして、そのサインには監督のキャラが反映されていることが多い。ロブ・ライナーの映画には特にライナー固有のサインがよく見える。それは大きな体にユーモアをたっぷり備えた、テディベアのようなライナーそっくりのサインである。

 『最高の人生のつくり方』は、それぞれの伴侶を亡くしたマイケル・ダグラスとダイアン・キートンが、ふとしたきっかけで二度目の人生に歩み出すまでを描いた2014年のロブ・ライナー作品である。実は、ライナーにはジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが人生最後の願いを叶える『最高の人生の見つけ方』と、モーガン・フリーマンが二度目の人生を歩み出す『最高の人生のはじめ方』という映画があり、邦題だけ見ると続編みたいだが、それぞれまったく別の映画であるし、原題には“最高”も“人生”も“方法”も出てこない。それがなぜ似通った邦題になったのかと言えば、配給会社の手抜きもあるだろうが、ロブ・ライナー印のサインが“最高”と“人生”と“方法”を組み合わせたものに近いことを感じとらせるからではないかと思う。

 主人公は不動産会社でセールスを担当しているオーレン・リトル(マイケル・ダグラス)。妻を癌で亡くし、独りぼっちになった彼は、住み慣れた豪邸を高値で売って、悠々自適の引退生活を送りたいと思っている。現在の住まいは、自分の所有する共同住宅だが、自己中で頑固な彼は皆の嫌われ者。そんな彼の前に、音信不通だった息子が現れ、刑務所に入ることになったので、9ヶ月の間、10歳の娘サラ(スターリング・ジェリンズ)を預かってくれと頼まれる。困ったオーレンは、隣室に住む、夫を亡くしたばかりのクラブ歌手リア(ダイアン・キートン)にサラを数日預かってもらい、その間に母親を探そうとする。やがて、サラの存在がぎくしゃくしていたオーレンと隣人たちとの人間関係を少しずつ改善していく。

 ロブ・ライナーは1947年生まれ。父親は監督・俳優・プロデューサーのカール・ライナーというよりも「オーシャンズ」シリーズの詐欺師ソウルといった方が通りがいいかも。息子も父と同じ道を歩み、84年に『スパイナル・タップ』で監督デビュー。以後、『スタンド・バイ・ミー』、『恋人たちの予感』、『ミザリー』などのヒット作を連発。俳優としても『めぐり逢えたら』のトム・ハンクスにティラミスを教える友人役など印象に残るカメオ出演を続けている。本作でも、つるつるの禿げ頭にカツラをのせて、ダイアン・キートンに密かに想いを寄せるピアニストをユーモラスに演じている。

 マイケル・ダグラスは1944年生まれ。偉大なる名優カーク・ダグラスの長男として生まれるが、6歳のときに両親が離婚し、母の元で育った。ニューヨークで演劇を学び、スタッフとして映画界入りしたのち、俳優に転向した。プロデューサーでもあり、『カッコーの巣の上で』でアカデミー賞作品賞を受賞、監督作もある。2010年に末期の喉頭癌を患っていることを公表したが、のちに克服。現在も俳優業とプロデューサー業の両方で活躍中。最近も『アントマン』の悪役ハンク・ピム役で元気な姿を見せていた。

 ダイアン・キートンは1946年生まれ。『ゴッドファーザー』のアル・パチーノの婚約者ケイ役で注目され、元恋人ウッディ・アレンが彼女に捧げた『アニー・ホール』でアカデミー賞主演女優賞を受賞。以後、今に至るまでハリウッドの第一線で活躍しているアメリカを代表する名女優である。本作の彼女はなんと70歳。ファッションも生活スタイルもナチュラルに若々しく、美しく歳をとるとはこういうこと、というお手本のような人である。

 『最高の人生のつくり方』の原題So as it goesは、直訳すれば“まあ仕方がない”みたいな意味。思いがけなく孫娘を預かることになってしまったオーレン、見るに見かねて手助けするリア。成り行きで親しくなるうちに、お互いの心に触れて、恋愛に発展する。そんなほのぼのした熟年同士の恋愛模様をうまく言い当てた題名かもしれない。

ライター 斎藤敦子のプロフィール

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