映画の処方箋

Vol.201

『特捜部Q -檻の中の女-』

冬の夜に、北欧発の傑作ミステリーを。

 特捜部Qシリーズはデンマークの小説家ユッシ・エーズラ=オールスンの手になる警察ミステリー。過去の未解決難事件を専門に扱う特捜部Qを舞台に、そこに配属されたはみだし刑事カールとシリア系アラブ人の助手アサドの活躍を描いてベストセラーとなり、現在まで7作品が刊行されている。

 シリーズ第1作の『特捜部Q -檻の中の女-』は2013年に映画化された。製作はラース・フォン・トリアーとペーター・オールヴェック・イェンセンが設立した製作会社ゼントローパで、脚本を『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のニコライ・アーセルが担当した。

 主人公はデンマーク警察殺人捜査課の警部補カール・マーク。頑固で皮肉屋ながら優秀な捜査官だった彼は、ある事件で部下の1人を亡くし、1人は半身不随、自身も重傷を負う。事件のトラウマを抱え、捜査の情熱を失った彼は警察内で孤立する。カールの捜査能力を買っていた捜査課長ヤコブスンは、与党の警察改革案を受け入れ、かつカールをやっかい払いするための一石二鳥の解決策として、過去の難事件を専門に担当する特捜部Qを新設し、カールを責任者に抜擢する。表向きは昇格だが、部下はデンマーク語もおぼつかない謎のアラブ人アサドだけ。部室は倉庫に使われていた窓のない地下室という左遷人事である。さっそく特捜部Qに持ち込まれた迷宮入りの事件の山の中から、アサドが取り上げたファイルが、5年前に船旅の途中で失踪した国会議員ミレーデ・ルンゴーの事件だった。

 ミレーデ・ルンゴーは次期首相とも目される野党民主党副党首だった。政治家としての手腕ももちろんだが、それ以上に美しさと謎の私生活で記者の注目を集めていたのだが、5年前にベルリンへの船旅の途中で、乗っていた車と障害者の弟を残して失踪、遺体が見つからないまま自殺として処理されていた。カールはファイルを調べるうちに、捜査のずさんさと、私生活を秘密にしていたミレーデの旅を誰かが知っていた可能性があることに気づき、捜査を開始する…。『特捜部Q -檻の中の女-』という題名通り、実はミレーデは生きていて、檻の中に閉じ込められ、死が刻々と迫っていた。捜査を進めるカールとアサドが、彼女の命を救えるかどうかが見どころだ。

 北欧ミステリーといえば、70年代に日本でもベストセラーになったシューヴァル&ヴァールーの<刑事マルティン・ベック>シリーズが思い浮かぶ。代表作の<笑う警官>はウォルター・マッソー主演『マシンガン・パニック』として映画化された。90年代を代表するのはヘニング・マンケルの<刑事クルト・ヴァランダー>シリーズで、近年ケネス・ブラナーの製作・主演で映像化され4シーズン放映された。2000年代は、何といっても世界的に大ベストセラーになったスティーグ・ラーソンの<ミレニアム>3部作で、TVシリーズ<ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女>となり、ハリウッドに渡ってデヴィッド・フィンチャーがダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ主演でリメイクした。そして現在、マンケル、ラーソン亡き後の北欧ミステリーを牽引すると言われているのが、アイスランドのアーナルデュル・インドリダソンの<犯罪捜査官エーレンデュル>とデンマークのユッシ・エーズラ=オールセンの<特捜部Q>のシリーズである。北欧ミステリーに共通するのは、冬の厳しさや夜の長さから発する暗さと、社会性を重視したリアリズム、丁寧な描写(それと、主人公の刑事が離婚経験者で、アルコール中毒に近い生活破綻者である点)であるように思う。特に、特捜部Qは、事件の派手さや猟奇性、登場人物の多様性などが、いかにも映画化向きで、<THE KILLING/キリング>や<THE BRIDGE/ブリッジ>がハリウッドに進出した勢いにのって、ハリウッドでシリーズ化されそうな気がする。

 監督のミケル・ノルガードは74年生まれ。<THE BRIDGE/ブリッジ>などの監督を経て2010年に長編劇映画デビューし、『特捜部Q -檻の中の女-』が2作目。続く2作目『特捜部Q -キジ殺し-』の監督も務めた。カール役のニコライ・リー・コスは73年生まれ。98年にデンマーク国立演劇学校を卒業し、以後、出演作多数。『天使と悪魔』では秘密結社イルミナティの暗殺者を演じている。アサド役のファレス・ファレスは73年レヴァノン生まれ。父も俳優で、14歳のとき家族と共にスウェーデンに移住、演劇学校を経て2000年に映画デビュー。達者な語学力を生かして『デンジャラス・ラン』や『ゼロ・ダーク・サーティ』などのハリウッド映画でも活躍中。ミレーデ役のソニア・リクターは74年生まれ。02年の『しあわせな孤独』ではニコライ・リー・コスと恋人同士の役で共演している。

 ニコライ・リー・コス&ファレス・ファレスのコンピの特捜部Qシリーズは、第2作『特捜部Q -キジ殺し-』に続いて、第3作『特捜部Q -Pからのメッセージ-』も今年本国で公開されているので、近いうちに日本でも見られるだろう。

ライター 斎藤敦子のプロフィール

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