映画の処方箋

Vol.191

『氷の微笑』

魔性の女に絡めとられ、堕ちていく刑事の甘い地獄

 『氷の微笑』は、オランダからハリウッドに渡り、『ロボコップ』と『トータル・リコール』の大ヒットでメジャー監督の仲間入りを果たしたポール・ヴァーホーヴェンが、マイケル・ダグラスを主演に迎えて製作したエロチック・サスペンス。ノーパンで男たちを悩殺する魔性の女を演じたシャロン・ストーンを一躍スターにした。

 舞台は現代のサンフランシスコ。元ロック・スターのクラブ経営者がアイスピックで殺害される事件が起こり、殺人課の刑事ニック(マイケル・ダグラス)と相棒のガス(ジョージ・ズンザ)が捜査を担当することになる。ニックは誤って観光客を撃つという事件を起こし、心理分析医ベス(ジーン・トリプルホーン)のカウンセリングを受けていた過去があった。第一容疑者は、被害者に最後に会った恋人キャサリン(シャロン・ストーン)。彼女は元ロック・スターがアイスピックで殺されるという、まさに事件通りのミステリー小説を前年に出版していた。事情聴取に現れたキャサリンは、検事や刑事を前にしても少しもひるまないどころか、かえって男たちを翻弄する。本部長の命令で彼女の尾行を始めたニックは、次第に彼女の魅力の虜になっていく。果たしてキャサリンはアリバイ作りに自分の小説を利用した大胆不敵な殺人鬼か、それとも真犯人は別にいて、キャサリンに罪をなすりつけようとしているのだろうか。

 公開時に犯人が誰かわかりにくいという評判が立ったが、犯人に関してはとてもわかりやすくできている。今回見直してみて、ヒントとなる台詞が何度も出てくることに改めて気づいた。それでも、わかりにくいという感想が出てしまうのは、魔性の女に翻弄されるニックの立場(サスペンス=宙づり状態)に観客を立たせるためのテクニックであって、結局犯人は誰だったんだろうと思った人は、ヴァーホーヴェンの術中に見事に嵌ってしまったと言えるだろう。

 『氷の微笑』は、よく知られているように、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』を元にしている。名作の誉れ高い『めまい』と、下半身直撃のエロチック描写を主とした『氷の微笑』を同列に論じるのは無理があるが、それでも坂の多いサンフランシスコの街、ニックがキャサリンを尾行する場面、『めまい』そっくりのらせん階段、『めまい』を意識した格調高いジェリー・ゴールドスミスの音楽などに、ヴァーホーヴェンからヒッチコックへの目くばせを感じる。

 主演のマイケル・ダグラスは1944年生まれ。『危険な情事』、『氷の微笑』、『ディスクロージャー』など、下半身先行型の男を演じるとなぜか妙な味が出る。一時期セックス依存症の噂があったことも彼の演技にリアリティを加えているようだ。シャロン・ストーンは1958年生まれ。ヴァーホーヴェンの前作『トータル・リコール』でシュワルツェネッガーの妻役を演じてチャンスをつかみ、『氷の微笑』でのブレイクにつながった。

 見どころは何と言っても取り調べ室でのシャロン・ストーンだろう。大胆に脚を組み換えながら、超ミニのドレスの裾からチラチラと股ぐらを覗かせ、男たちに生唾を飲み込ませる演技は、映画史に残るというとちょっと大げさだが、シャロン・ストーンがスターになることを決定的にした、一度見たら二度と忘れられない名場面である。

ライター 斎藤敦子のプロフィール

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