映画の処方箋

Vol.181

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 <ディスタンス>』

フィクションとリアルな人生が交錯する、恋と人生についての映画

 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 <ディスタンス>』は、列車の中で偶然出会った若い男女が、朝まで共に過ごすうちに、恋に落ちる一夜を描いて、1995年に公開されるや世界中の若者たちを胸キュンさせたロマンティックな恋愛映画だ。その9年後の2004年、同じスタッフ・キャストで同じ男女が9年後に再会する一日を描いたのが『ビフォア・サンセット』。9年の距離を置いて、うつろいやすい恋心と男女の心の機微を描いたこの2作は、映画というフィクションの時間に、リアルな実人生の時間を持ち込んだ、映画史上でも稀有なシリーズになった。

 第1話『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 <ディスタンス>』は、アメリカからヨーロッパ旅行にやってきた青年ジェシー(イーサン・ホーク)は旅の帰路、ブダペストからウィーンへ行く列車の中でフランス人の女子大生セリーヌ(ジュリー・デルピー)に出会う。意気投合した二人は、夜のウィーンの街を歩きまわり、次第に離れがたく思うようになるのだが、朝になり、ジェシーの帰国便の時間が迫ってきて…。

 第2話『ビフォア・サンセット』は、それから9年後。セリーヌとの出会いを小説に書いたジェシーは、パリのシェイクスピア書店で出版記念講演を開くと、そこにセリーヌが現れる。パリの街を歩きながら、つきない話を続ける二人だが、やがてジェシーの帰国便の時間が迫ってきて…。

 主演のイーサン・ホークは1970年テキサス州オースティン生まれ。14歳で映画デビューし、『いまを生きる』のロビン・ウィリアムズの生徒や、ジャック・ロンドンの原作を映画化した『ホワイト・ファング』のオオカミと触れ合う少年役が印象深い。現在は俳優以外にも監督や作家としても才能を発揮している。ジュリー・デルピーは1969年パリ生まれ。両親とも俳優で、14歳のときに『ゴダールの探偵』で映画デビュー。翌年レオス・カラックスの『汚れた血』で注目される。以後、タランティーノ製作の『キリング・ゾーイ』、ポーランドの鬼才キェシロフスキの『トリコロール』などに出演。けれども彼女の名がポピュラーになったのは出演の他に脚本も担当した『ビフォア・〜』からだろう。『ビフォア・〜』彼女のセリフはほとんど彼女自身が書いたもの。映画監督作もある、才媛という言葉がぴったりの女優だ。

 監督は昨年『6才のボクが、大人になるまで。』でアカデミー賞2部門にノミネートしたリチャード・リンクレイター。実は『6才の〜』の6才の少年が18才になるまでの12年間を実際に12年間かけてフィクションで撮るというアイデアは、『ビフォア・〜』から思いついたもの。『ビフォア・〜』のアイデアは、監督になる前のリンクレイターが、ある女性と出会い、一晩フィラデルフィアの街を一緒に過ごしたという実際の出来事から。映画と違って、この出会いには悲しい結末がある。その後、彼女からの消息が途絶え、監督になったリンクレイターが『ビフォア・〜』の後で調べてみたら、フィラデルフィアでの出会いから数年後に交通事故で亡くなっていたということだ。

 蛇足ながら、リンクレイターは2013年に、さらに9年後のジェシーとセリーヌを主人公にした『ビフォア・ミッドナイト』を撮っている。さらに9年後の2022年に第4話を撮るかどうかは不明だが、ここまで来たら二人の老境まで付き合ってみたい気はする。

ライター 斎藤敦子のプロフィール

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