映画の処方箋

Vol.180

『アカデミー賞ノミネート』

世界で一番有名な映画賞の行方を占う

 新年に入ってあわただしくなるのが映画賞レース。そのトリを務めるのが世界で一番華やかで有名な映画賞の米国アカデミー賞だ。1月14日に第88回アカデミー賞のノミネートが発表になったので、その顔ぶれを見ながら、賞の行方を占ってみよう。

 今年、最もノミネート数の多かったのは『レヴェナント:蘇えりし者』で12部門だった。昨年『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で4冠を制したメキシコ人のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが、またも名撮影監督エマニュエル・ルベツキと組んで最多ノミネートを獲得したのは驚きで、それだけイニャリトゥの演出力が優れているということだろう。『レヴェナント:蘇えりし者』は熊に襲われて重傷を負い、荒野に置き去りにされたハンター(レオナルド・ディカプリオ)が、壮絶なサバイバルの果てに自分を置き去りにした冷血な仲間(トム・ハーディ)に復讐するという物語。さすがに2年連続での監督賞、撮影賞はないだろうが、レオナルド・ディカプリオの主演男優賞は固いだろう。

昨年5月のカンヌ映画祭でお披露目されて以来、世界各地で受賞歴を重ねてきた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が10部門で『レヴェナント:蘇えりし者』を追う。が、ここまで突っ走ってきて、さすがに息切れしてきたのか、アカデミー前哨戦と言われる今年のゴールデングローブ賞では、作品、監督、主演の3部門を『レヴェナント:蘇えりし者』にさらわれてしまった。そのうえ圧倒的な存在感を示したシャーリーズ・セロンが主演にも助演にもノミネートされなかったのは不可解。

『レヴェナント:蘇えりし者』と『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の2強に続くのが、リドリー・スコットの『オデッセイ』の7部門だ。火星に取り残された宇宙飛行士(マット・デイモン)のサバイバルと救出ミッションを描き、技術系の部門でノミネート数を稼いだが、なぜかリドリー・スコットが監督賞にノミネートされていない。

ノミネートを逸したといえば、『ブリッジ・オブ・スパイ』の監督スティーヴン・スピルバーグと主演トム・ハンクスも同じ。東西冷戦下、ニューヨークで保険を専門にしていた弁護士(トム・ハンクス)がソ連のスパイとアメリカ兵との交換を成功させるまでを描いた実話の映画化で、『戦火の馬』、『リンカーン』に続くスピルバーグのヒューマン・ドラマ。作品、助演男優(マーク・ライランス)脚本など5部門にノミネート。

カンヌ映画祭でルーニー・マーラが女優賞を受賞し、全米批評家賞やニューヨーク批評家協会賞を制したものの、ゴールデングローブ賞では無冠に終わった『キャロル』は、主演女優(ケイト・ブランシェット)、助演女優(ルーニー・マーラ)など5部門。カトリック教会が隠蔽したスキャンダルを暴いたボストン・グローブ紙の記者たちの活躍を描き、前評判の高かった『スポットライト 世紀のスクープ』が作品、監督、脚本、助演女優ほか5部門と続く。

今年最も固いと私が思うのは、『サウルの息子』の外国語映画賞と『インサイド・ヘッド』の長編アニメーション賞(スタジオジブリの『思い出のマーニー』がノミネートされているが、受賞の可能性はほとんどない)とディカプリオの主演男優賞だが、ここに来て意外な伏兵が現れた。それは映画監督のスパイク・リーが演技賞のノミネートに2年続けて黒人俳優が1人も入っていないことに異議を申し立て、授賞式のボイコットを宣言したことだ。それにジェイダ・ピンケット・スミスと夫のウィル・スミスが同調し、ジョージ・クルーニーも「10年前のアカデミーの方がよい状況だった」と発言して、大きな論争を巻き起こした。それに対してアカデミー賞を主催する映画芸術アカデミーは、2020年までに女性や黒人などマイノリティの会員の割合を2倍にすると発表、事態の鎮静化を図っている。この風潮を受けて、ノミネートを選ぶ段階では保守的だった会員も、豊かな資金で作られたメジャーな作品より、頑張っているインディペンデント系の作品を応援しようという気持ちになるのではないか、なって欲しいと私は思う。すべては2月28日夜、ハリウッドのドルビー・シアターで明らかに。

もっと見る

ライター 斎藤敦子のプロフィール

前へ次へ

HOMEへ戻る