映画の処方箋

Vol.168

『クロスボー作戦』

ナチのV2ロケット開発をめぐる戦争スパイ・アクション

第二次大戦を描いたイギリス映画と言って真っ先に思い出すのは、今ならベネディクト・カンバーバッチがアカデミー主演男優賞にノミネートされた『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』だろう。ここで描かれた暗号機エニグマをめぐる物語は有名で、マイケル・アプテッドが監督した、そのものずばりの『エニグマ』という映画もあるし、ショーン・コネリーが007を演じた『007/ロシアより愛をこめて』で、コネリーがダニエラ・ビアンキと共に西側に持ち出すのがエニグマだった。

 もう1つイギリス映画に欠かせないのは制空権をめぐるドイツとの闘いで、空襲に苦しめられたイギリスがいかに団結して空軍を立て直し、ドイツの侵略を防いだかを描いた『空軍大戦略』という映画もある。『クロスボー作戦』もまた制空権をめぐる闘いを描いたものだが、製作がイタリアのカルロ・ポンティなので、次第にスパイ映画のような展開になっていくところが面白い。

 発端はノルマンディー上陸作戦を翌年に控えた1943年。チャーチル首相(パトリック・ワイマーク)は義理の息子で政務官のダンカン・サンディーズ卿(リチャード・ジョンソン)を呼び、ドイツが開発しているという噂の長距離ロケットの存在を確かめ、事実なら破壊せよと命じる。航空写真の精査から、バルト海沿岸のペーネミュンデに基地があると睨んだサンディーズは、ペーネミュンデを爆撃する。ところが、ボイド将軍(ジョン・ミルズ)からドイツ国内に秘密のロケット工場があり、一流の技術者を集めているという情報が入り、上陸作戦を成功させるためにも、諜報員を潜入させることを決意する。軍隊や省庁から語学に堪能な技術者を集めた採用試験が行われ、弾道学の専門家ヘンショー(トム・コートネイ)、対空ロケットを研究しているブラッドリー大尉(ジェレミー・ケンプ)、マサチューセッツ工科大で物理学を学んだカーティス中尉(ジョージ・ペパード)が選ばれる。別人になりすましたヘンショーとカーティスがオランダへ送られたところで、ヘンショーが身分を借りた男が実は犯罪者として警察に追われていることがわかり、ブラッドリーが新しい身分証を持って2人の後を追いかけるが、2人が滞在しているホテルに、カーティスが身分を借りた男の妻(ソフィア・ローレン)が夫に会いに現れる…。

 『クロスボー作戦』が面白いのは、イギリスとドイツの制空権をめぐる闘いがほぼ史実通りに描かれているのに対し、ジョージ・ペパード、トム・コートネイ、ジェレミー・ケンプの3人が偵察に派遣される部分が007風のスパイ・アクションになっているところだ。特にクライマックスのロケット工場の場面はちょっとしたSF映画のようでもあり、前半のタッチと全く相容れない。おそらくイギリスのスタッフが作ろうとした実録“クロスボー作戦”と、カルロ・ポンティが作ろうとしたスパイ・アクション“クロスボー作戦”が融合しないまま、継ぎ接ぎになってしまった結果だろうと想像するが、愛妻ソフィア・ローレンの特大クローズアップも含めて、やりたい放題なポンティ節を私は面白く見た。

 ちなみに、イギリス側の登場人物がほぼ実名なのに対し、ドイツ側はテスト・パイロットのハンナ・ライチュを除いてほぼ仮名になっている。特にホッファー教授として登場するV2ロケットの開発者は、実際にはヴェルナー・フォン・ブラウンといい、当時30歳そこそこだった。変わり身の早い人で、ドイツの敗北を嗅ぎ取るとすぐアメリカに亡命し、戦後はNASAでアメリカの宇宙開発の中枢を担っていくことになる。あのV2ロケットがアポロ計画の宇宙ロケットになった、そんなことを考えながら見ると、意外に深く楽しめるかもしれない。

ライター 斎藤敦子のプロフィール

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