映画の処方箋

Vol.149

『モネ・ゲーム』

モネの贋作をネタにした英国製コン・ゲーム映画の佳作

 コリン・ファースが珍しく喜劇に挑戦した『モネ・ゲーム』は、いわゆるコン・ゲームもの。原題の“ギャンビット”とはチェス用語で、その後の展開を有利にするために、取られるのを覚悟で打つ最初の1手のこと。1966年にマイケル・ケインとシャーリー・マクレーンが主演した『泥棒貴族』の原題でもあり、その設定を借りて、コーエン兄弟が大胆に脚色したクライム・コメディが『モネ・ゲーム』である。監督は『ソープディッシュ』や『終着駅 トルストイ最後の旅』のマイケル・ホフマン。

 ロンドンの美術鑑定士ハリー・ディーン(コリン・ファース)は、ナチスに略奪されて行方不明になったモネの名作絵画<積みわら―夕暮れ>をネタに、長年彼に屈辱を味わわせてきたメディア王シャバンダー(アラン・リックマン)に復讐しようと思いつく。協力者のネルソン少佐(トム・コートネイ)が贋作を描き、ナチスの美術愛好家ゲーリング元帥邸を襲撃した米軍の隊長プズナウスキーの子孫を捜し出し、味方に引き入れれば計画は完璧…なはずだった。ところが、テキサスの片田舎に住むプズナウスキーの孫娘PJ(キャメロン・ディアス)は自由奔放な田舎娘で、ハリーの言う通りにはならず、おまけにケルンの美術館館長というザイデンベイバー(スタンリー・トゥッチ)が新たな鑑定士として雇われ、ディーンの完璧な詐欺計画は次々に綻び始める…。

 コン・ゲーム(コンはconfidence=信用のこと)という言葉を日本に広めたのは、1973年の『スティング』だった。ロバート・レッドフォードとポール・ニューマンの詐欺師コンビが、ギャングの大ボスのロバート・ショウを騙すストーリーだが、ラストに大どんでん返しがあり、観客も一杯食わされていたことがわかる。実は『モネ・ゲーム』にもコン・ゲームの鉄則を踏まえて様々な“仕掛け”が施されており、ラストのどんでん返しに見事に繋がるので、ご用心。

 主演のコリン・ファースは、『英国王のスピーチ』の発音障害に悩む英国王ジョージ6世や『レイルウェイ 運命の旅路』の過酷な経験のトラウマを背負った元英国軍兵士などの真面目な役がぴったりで、この映画のように、計画が崩れて喜劇的な状況にはまっていくというコメディ演技には不向きではないかと思ったのだが、終わってみると、彼のグズグズもたもたした感じが意外に効果的だったことがわかる(ネタバレになるので言いませんが)。テキサス訛り丸出しのロデオ娘キャメロン・ディアスと傍若無人でサディスティックな億万長者アラン・リックマンははまり役。怪しいドイツ語を操るスタンリー・トゥッチは相変わらずいかがわしくて笑える。少佐を演じたトム・コートネイは60年代初めから英国の映画・演劇界で活躍、サーの称号を持つ重鎮で、83年にアルバート・フィニーと共演した『ドレッサー』が忘れられない。

 1つだけネタバレすると、バブルの時代に映画によく登場した滑稽な日本人ビジネスマンがこの映画にも登場する。けれども、ここでは彼らもまた一種のコン・ゲームを演じているのであり、社長のタカガワ(伊川東吾)もまたシャバンダーに“復讐”を果たして終わる。この辺がいかにもコーエン兄弟らしい気遣いだと思う。

 コーエン兄弟は、以前もイギリス・イーリング・コメディの傑作『マダムと泥棒』を脚色した『レディ・キラーズ』をトム・ハンクス主演で撮っていて、本当にクラシックをよく勉強している人達だと感心する。『ファーゴ』や『ビッグ・リボウスキ』といった100%コーエン印の傑作もいいが、彼らがお手本にしている正統派コメディのテイストを知るのも楽しいだろう。『モネ・ゲーム』は格好の1本だ。

もっと見る

ライター 斎藤敦子のプロフィール

前へ次へ

HOMEへ戻る