映画の処方箋

Vol.144

『スプリング・ブレイカーズ』

青春という名の休暇が終わるとき

『スプリング・ブレイカーズ』は、学校の春休みに刺激を求めてフロリダへやってきた4人の女子大生のアバンチュールを描いた青春クライム・ムービーで、2012年のヴェネツィア国際映画祭正式出品作である。内容が内容だけに、良識派からは大ブーイングだったが、カイエ・デュ・シネマ誌の年間ベストテンの2位に入るなど、映画ファンからは熱狂的な支持を集めた。

 フェイス(セレーナ・ゴメス)、キャンディ(ヴァネッサ・ハジェンズ)、ブリット(アシュレイ・ベンソン)、コティ(レイチェル・コリン)の仲良し4人組は、あこがれの“スプリング・ブレイク”へ行くために強盗まで働いて資金を作り、親には内緒でフロリダのビーチへやってきた。酒とドラッグとセックス。退屈な日常とは正反対の朝から晩までパーティ三昧の日々は、警察の手入れで突然終わり、保釈金を払うまで留置所を出られなくなる。窮地を救ったのは怪しげなラッパー、エイリアン(ジェームズ・フランコ)だった。4人はエイリアンの手引きで、さらにスリルを求めて危険な世界へ足を踏み入れることになるのだが…。

 “スプリング・ブレイク”とは直訳すれば春休みのことだが、今は春先でまだ寒い北部の高校や大学から暖かいフロリダやマイアミのビーチに出かけてどんちゃん騒ぎをすることを指す。映画には本物のスプリング・ブレイクを撮った場面が出て来るが、アメリカの大学生は本当にこんなお馬鹿なことをやっているのかと呆れてしまう。とはいえ、上の世代はウッドストックのような野外のロック・フェスでハメを外すような体験をしてきたのだから、青春を謳歌するのは若者の特権として大目に見てあげよう。

 監督のハーモニー・コリンは1973年生まれ。19歳のときに写真家ラリー・クラークの映画デビュー作『KIDS/キッズ』の脚本を書き、その早熟な才能に注目が集まった。97年『ガンモ』で監督デビュー、『スプリング・ブレイカーズ』は4本目の監督作になる。

 ラリー・クラークがそうだったように、ハーモニー・コリンもアメリカの映画産業とはまったく別の立ち位置で映画を作っているインディーズ作家である。この映画も、かっちりとしたプロットを作り、きっちりドラマを作るという普通の映画作りではなく、むしろ、プロットやドラマという虚構性を排除した映画作りを目指している。その結果、『スプリング・ブレイカーズ』には、普通の映画ならあるはずのドラマ性という皮膜がないか、あっても限りなく薄く、映画の世界がまるで現実に溶け込んでいるかのように見える。見ているうちに、4人の女子大生のプライベートな映像日記を覗いているような、彼女たちの5人目の仲間になったような、そんな気分になってくるだろう。ただし、普通の人が眉をひそめるような題材を扱い、わざと常識を逆撫でするような描き方をしているから、良識ある人は、なおさら嫌な気分に陥るかもしれない(それが狙いでもある)。けれども、永遠に春が続くと言う、あこがれの世界へ迷い込んだ娘たちの失楽園の物語として見れば、ドラッグやセックスや犯罪は一種の小道具でしかなく、実は、ありえない夢を求め、挫折してく娘たちのほろ苦い青春映画であることがわかってくるはずだ。

 全編ビキニ姿でがんばる女優たち。セレーナ・ゴメスはディズニー・チャンネルのオリジナル版<ウェイバリー通りのウィザードたち>で注目され、ジャスティン・ビーヴァーとの交際でも話題になったアイドル、ヴァネッサ・ハジェンズは<ハイスクール・ミュージカル>で有名になり、ザック・エフロンと交際していたアイドルで、彼女らティーンに絶大な人気のスターをキャスティングしたのは、話題作り以上に、前述の世間の良識を逆撫でする意図があるのは明らかだ。黒1点、『スパイダーマン』や『127時間』とはまるで違うジェームズ・フランコのアッと驚くファンキーな役作りにも注目。ビーチで実際に彼がラップを歌う場面が出てくるので、お見逃しなく。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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