映画の処方箋

Vol.136

『最強のふたり』

ミス・マッチこそベスト・マッチ

オリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノの『最強のふたり』は2011年の東京国際映画祭で最高賞の東京サクラグランプリと主演のフランソワ・クリュゼとオマール・シーが男優賞を受賞したハートウォーミングなコメディだ。

大富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、パラグライダーの事故で脊椎を損傷し、首から下が麻痺して車椅子の生活を余儀なくされている。インテリで気難しい彼に、なかなか介護人が居着かず、また新たに介護人の面接が行われているところに、いかにも場違いな黒人青年ドリス(オマール・シー)が現れる。彼の目的は面接に来たというサインをもらうだけ。就職活動をしていることが証明されれば失業手当が貰えるからだ。何の遠慮もなく、ずけずけものを言うドリスに興味を持ったフィリップは、試しに1か月だけ働いてみないかと持ちかける。こうして郊外の低所得者住宅からパリの大邸宅にやってきたドリスが、静かだったフィリップの毎日に旋風を巻き起こしていく。

ストーリーだけ聞くと、まるでよく出来た作り話のようだが、実は本当にあった話。大富豪と貧しい移民の青年が障害者と介護人として出会い、強い絆で結ばれるという部分が事実で、ふたりの話がテレビ番組に取り上げられたのがきっかけでドキュメンタリーが作られ、それを見たナカシュとトレダノが映画化を思いついたという(映画の公開後に新たにドキュメンタリーが作られた)。事実と最も違うのは、実際に介護人になったのはナイジェリア出身のアブデルという青年だが、映画ではセネガル出身の黒人ドリスに変えているところ。もちろん細かいエピソードは映画のオリジナルである。

首から下が動かないため、すべてを顔だけで表現するという難役フィリップを演じたフランソワ・クリュゼはクロード・シャブロル作品などで知られるフランスの名優。一見粗雑だが、実は心優しい好青年ドリスを演じたオマール・シーは78年にパリの郊外に生まれ、早くからテレビドラマで活躍していたが、ジャン=ピエール・ジュネの『ミックマック』の言語オタク役で注目され、『最強のふたり』でセザール賞主演男優賞を受賞。最新作は5月30日公開の『X-MEN:フューチャー&バスト』で、これでハリウッド進出も果たした。

映画が公開されると本国フランスで観客動員数歴代3位の大ヒットとなり、日本でもフランス映画の興行記録を塗り替える大ヒットとなった。それだけ大勢の人に愛された理由はこの映画の持つ清々しさだと思う。大金持ちと貧乏人、障害者と介護人、大邸宅と団地、クラシックとロックと、何もかも正反対なのに、フィリップにもドリスにも差別意識がない。大富豪のフィリップは口の悪いドリスをそのままの姿で受け入れ、ドリスは障害者フィリップをそのままの姿で受け入れる。自分の価値観を押しつけることなく、相手を尊重する。本音でぶつかりあい、互いに影響を与え、自分も成長する。こんなにステキな話が本当にあったのか不思議なくらいだが、そこが実話の強み。“事実は小説より奇なり”とはこのことなんだなと感心する。

フィリップの秘書マガリ、家政婦のイヴォンヌら、脇役のキャラもよく書けていて、マリファナやiPodなど小道具の使い方も巧みだし、本当に隅々まで神経の行き届いた、お手本のような脚色だ。私が好きなのは、フィリップの誕生日のサプライズ・パーティと、ドリスがフィリップをパラグライダーに連れ出す場面だが、他にも繰り返し見たくなる場面がたくさんある。世界中で大ヒットしたのも納得の元気をもらえる映画である。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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