映画の処方箋

Vol.133

『ドラゴン・タトゥーの女』

北欧発の世界的ベストセラーを豪華なキャストでタイトに映画化。

 『ドラゴン・タトゥーの女』は、スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンが2005年に発表したミステリー小説<ミレニアム>シリーズの第1部を、デヴィッド・フィンチャー監督、ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ主演で映画化したもの。

 社会派の雑誌<ミレニアム>の発行責任者でジャーナリストのミカエル(ダニエル・クレイグ)が大物実業家の不正を暴いた記事を名誉毀損で訴えられて有罪となり、一線を退かざるをえなくなる。そんな彼に、大財閥ヴァンゲル・グループの元会長ヘンリック(クリスファー・プラマー)が、40年前に忽然と姿を消した姪ハリエットの失踪事件を解決するよう依頼してくる。ミカエルはヘンリックの息子で現会長マルティン(ステラン・スカルスガルド)ら、ヴァンゲル一族の住む島に移り住み、残された古い記録の再調査を始め、新たな手がかりを掴む。が、膨大な資料を前に協力者の必要を感じた彼は、自分の身辺調査を担当した天才的なハッカー、リスベット(ルーニー・マーラ)に協力を依頼。こうして社会的な地位を失った男と、背中にドラゴンの刺青のある娘が手を組み、それぞれのやり方でヴァンゲル家の忌まわしい過去に迫っていく、というストーリーだ。

 原作者のラーソンはリベラル派のジャーナリストで、<ミレニアム>が処女作だが、2004年に心臓発作で急逝し、自著が出版されるのもベストセラーになるのも目にすることがなかった。出版契約時には5部まで構想があったといわれるが、ラーソンの死により今のところは第3部で終了している(ラーソンのパソコンに第4部の原稿とその後の草稿が残されていると言われているが、出版可能かどうかは不明)。

 各国語に訳された原作が世界的なベストセラーになると、本国スウェーデンで3部作が原作に忠実に映画化され、リスベットを演じたノオミ・ラパスが一躍スターとなった。フィンチャー版は、このスウェーデン版を踏まえて作られたもので、ハリウッド式リメイクの見事なお手本となっている。

 何より素晴らしいのはキャスティングである。スウェーデン版のミカエル・ニクヴィストとノオミ・ラパスもいいが、それでもダニエル・クレイグとルーニー・マーラの持つスターのオーラには敵わない。特に『ソーシャル・ネットワーク』でジェジー・アイゼンバーグを振る名門女子大生を演じたルーニー・マーラが、がらりと雰囲気を変え、眉と口にピアスをした社会の異端者リスベットに変身してみせたのには舌を巻く。その他のキャストも豪華で、ヴァンゲル家の弁護士フルーデを演じるのはイギリス演劇界の鬼才スティーヴン・バーコフだし、アニタには名女優ヴァネッサ・レッドグレーヴの娘ジョエリー・リチャードソン、回想場面でクリストファー・プラマーの若い頃を演じるのはジュリアン・サンズ、調査会社の社長は『ER』のコバッチュ先生ことゴラン・ヴィシュニックという具合だ。

 そして演出がこれまた職人芸なのだ。MTV出身でヴィジュアル表現に長けたフィンチャーだけあって、自分の求める画を小気味よいほど的確に作り上げている。室内場面以外はすべてスウェーデンでロケしているのも、何でもアメリカかカナダで撮ってしまう普通のハリウッド映画と違い、イメージを大切にする彼らしい。原作の枝葉をばっさり切って、ストーリーラインをタイトに、すっきりさせているところも、こだわりが強すぎてストーリーラインが見えにくかった『ゾディアック』(それでも私の好きな作品であることに変わりはないが)や、複数の時制を巧みに織り込んだ『ソーシャル・ネットワーク』より一皮むけた感がある(どんなことでも複雑にすることよりシンプルにすることの方が難しいのだ)。ラストは原作とは少し異なっているが、無理がないうえに後味がよく、この辺りもさすがハリウッド映画だなと思う。どのカットもフィンチャーが腕によりをかけて撮っているので見応えがあり、何度見ても新しい発見がある。

 ちなみに、第二部<火と戯れる女>もダニエル・クレイグとルーニー・マーラのコンビで映画化が予定されているが、フィンチャーがメガホンをとるかどうかは不明。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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