映画の処方箋

Vol.123

『大統領の陰謀』

大統領を辞任に追い込んだ世紀のスクープの裏側

1972年6月17日土曜日の深夜、首都ワシントンのウォーターゲート・ビル6階にある民主党全国委員会本部オフィスに侵入した5人の男が逮捕された。ワシントン・ポスト紙の社会部長ハリー・ローゼンフェルド(ジャック・ウォーデン)は地方版担当の新人記者のボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)に調査を命じる。裁判所に取材に行ったウッドワードは、犯人の一人がCIAの元警備主任であることを知り、事件が根深いことを嗅ぎつける。警察担当記者が犯人の持っていた住所録に“ハワード・ハント”と“W・ハウス”という文字が書き込まれていたことを突き止め、月曜にウッドワードがホワイトハウスへ電話を掛けてみると、なぜか大統領特別顧問チャールズ・コルソンのオフィスに繋がってしまう。事件の裏に政府首脳が関わっていると察知した編集局長ハワード・シモンズ(マーティン・バルサム)は専任の取材班を作り、大物記者を当てようとするが、ローゼンフェルドが反対し、これまで担当してきた新人ウッドワードと、優秀だが変わり者のカール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)を指名する。こうして、“ウッドスタイン”と呼ばれた優等生ウッドワードと問題児バーンスタインのコンビが、互いの短所を補い合いながら、事件の真相に迫っていく。

『大統領の陰謀』は、ポスト紙の記者ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインの共著<大統領の陰謀 ニクソンを追い詰めた300日>の映画化である。アメリカ・ジャーナリズム史に残ると言われるポスト紙のウォーターゲート事件報道(1973年にピュリッツァー賞受賞)だが、デイヴィッド・ハルバースタムは著書<メディアの権力>の中で、“いくつもの偶然が重なった”結果だとし、最初の偶然を、事件が週末に起こったため、大物記者が休んでいて、新人のウッドワードとバーンスタインに担当が回ったことを挙げている。ウッドワードは中西部出身の優等生。海軍勤務の後、ポスト紙に入社したばかりの新人で当時29歳。一方のバーンスタインは地元ワシントン出身、新聞社の使い走りから叩き上げた根っからの新聞記者で28歳。二人とも最初の離婚後で、家庭サービスに時間がとられない分、事件の追及に没頭できたこともハルバースタムは偶然の1つに挙げている。

監督は『パララックス・ビュー』、『ソフィーの選択』、『推定無罪』など、サスペンス映画に定評のあるアラン・J・パクラ。撮影は『ゴッドファーザー』で知られる名手ゴードン・ウィリスで、影を利用して画面に緊張感を出す、『ゴッドファーザー』仕込みの撮影に磨きが掛かっている。また冒頭のウォーターゲート・ビルを始め、連邦議会議事堂など、実際に事件が起こった現場でロケ撮影されているのも見どころの1つ。ただし、ワシントン・ポスト紙編集局は、カリフォルニアのワーナー撮影所内に、ゴミ箱の中身まで限りなく本物に近く再現されたセットである。

当初、ポスト紙の地方版扱いだったウォーターゲート事件は、やがて新聞・テレビの大メディアを巻き込んだ報道合戦になり、現役大統領の任期途中での辞職という歴史的大事件に発展していく。だが、パクラはあくまで“目に見えない大きな敵”を追いかける二人の若手記者の視点を貫き、社会派ドラマというより、ドキュメンタリータッチのサスペンス映画に仕立てているので、事件自体を知らなくても十分に楽しめる。

ちなみに、その後カール・バーンスタインは76年にライター出身の脚本家で、のちに映画監督になるノーラ・エフロンと結婚、80年に離婚した。エフロンがこの嵐のような結婚生活を元に書いた脚本をマイク・ニコルズが1986年に『心乱れて』として映画化、バーンスタイン役をジャック・ニコルソンが演じている。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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