映画の処方箋

Vol.122

『モールス』

不吉な町で起こった、悲しくも美しいラヴ・ストーリー

舞台は1983年3月のニューメキシコ州ロスアラモス。雪の夜道をパトカーに先導されて救急車が走っていく。患者は顔に酸を浴びた瀕死の男だ。病院に収容された男を刑事(イライアス・コティーズ)が訪ねてくるが、刑事が席を外したすきに男は自殺する。その2週間前。学校ではいじめに遭い、家では問題を抱えた母親から放任され、寂しい毎日を送っている12歳の少年オーウェン(コディ・スミット=マクフィー)。いつものように団地の庭で、夜一人で遊んでいると、同じ年頃の美少女が引っ越してくる。少女はアビー(クロエ・グレース・モレッツ)といい、年老いた父親(リチャード・ジェンキンス)と二人暮らし。真冬でも裸足で歩く、謎めいたアビーに惹かれていくオーウェンだが、アビーの身辺を探るうちに、彼女と父親に隠された、恐るべき秘密を知ってしまう…。

原作はスウェーデンのヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの同名小説で、2008年にスウェーデン映画『ぼくのエリ、200歳の少女』として映画化。『モールス』は、スウェーデン版が出来上がる前に映画化権を買ったハマー・プロが企画し、当初はスウェーデン版を監督したトーマス・アルフレッドソンに監督を依頼したが、あっさり断られ、結局『クローバーフィールド/HAKAISHA』のマット・リーヴスが監督に起用された。リーヴスは、舞台(ストックホルムをロスアラモスに)と主人公の名前(エリとオスカーをアビーとオーウェンに)を変えた他は、原作にほぼ忠実に映画化しており、『ぼくのエリ、200歳の少女』のリメイクというより、原作の二度目の映画化と言った方が正しいように思う。

ハリウッド版『モールス』の最大の魅力は、何といってもアビーを演じたクロエ・グレース・モレッツにある。1997年2月10日ジョージア州アトランタ生まれ。父は形成外科医、母は看護師だが、幼い頃に両親が離婚、4人の兄のうちの一人、トレヴァーが演劇学校に入学することになって、一家はアトランタからニューヨーク、ついでロサンゼルスへ移住。兄がショービズ界に進んだことからクロエ・グレース・モレッツも幼い頃から子役やモデルとして活躍(トレヴァーは俳優兼妹の演技コーチに。もう一人の兄コリンも俳優になり、『モールス』に端役で出演している)。2005年『悪魔の棲む家』のチェルシー役でヤングアーティスト賞を受賞し、2010年に『キック・アス』のヒット・ガール役と本作の主演で一躍注目を集めた。その後は2011年の『ヒューゴの不思議な発明』を経て、タイトル・ロールを演じたスティーヴン・キング原作『キャリー』が11月8日から日本公開中。『キック・アス』のヒット・ガールといい、『モールス』『キャリー』と難役をこなす、可愛いだけじゃなく根性もある、まだ16歳の大注目株である。

一方、オーウェン役のコディ・スミット=マクフィーは1996年6月13日オーストラリアのアデレイド生まれ。父親は俳優のアンディ・マクフィー。『ザ・ロード』のヴィゴ・モーテンセンの息子役で注目された若手で、『モールス』のときには小柄なやせっぽちだったが、今では190cmを超える長身に成長し、順調にキャリアを伸ばしている。

マット・リーヴスが舞台に選んだロスアラモスは、マンハッタン計画(第二次大戦中から始まった原爆製造計画)で知られる不吉な町。また、冒頭のテレビで流れるレーガン大統領の演説は、外敵であるソ連を“悪の帝国”に喩え、自国を善とし、正と邪、善と悪の闘いをやめるなと訴えた有名なもの。皮肉なことに『モールス』の主人公オーウェンは、外敵である絶対悪に直面したとき、自分の内にも悪があることに気づき、闘いとは別の道を選んでしまう。ここにリーヴスが映画に込めた思いが現れていると私は思う。物語の核はイノセントな少年少女のラヴ・ストーリーと猟奇ホラーの合体だが、そこにアメリカに対する批評眼が加わり、映画に深みが出ている。恐いだけでなく、悲しくも美しいホラー映画である。

もっと見る

ライター 斎藤敦子のプロフィール

前へ次へ

HOMEへ戻る