映画の処方箋

Vol.118

『インビクタス/負けざる者たち』

スポーツが国民を1つにした感動の実話。

スポーツをテーマにした映画には感動作が多い。それはフェアプレイの精神が心を打つからであり、運命としか言いようのない力が働いて、ダビデがゴリアテを倒したような大番狂わせが起こるからである。人間の域を超えた、そんな魔力が我々を魅了するのだ。1995年に南アフリカで開かれたラグビーワールドカップでも、そんな運命の大番狂わせが起こった。『インビクタス/負けざる者たち』は、その実話の映画化である。

1994年、南アフリカで史上初の全人種参加の選挙が行われ、ネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)が大統領に就任した。しかし、アパルトヘイト政策は撤廃されても、白人と黒人には依然として明らかな差別が存在していた。マンデラは大統領府を白人と黒人の混成スタッフで固めるなど、率先して人種間の融和政策を実施、翌95年に開催が決まっていたラグビーワールドカップを絶好の機会と捉えて、国民を1つにしようと決意する。当時、白人のスポーツとされていたラグビーは黒人に人気がなく、代表チームであるスプリングボックス(“スプリングボック”とはアフリカに生息するガゼルの一種)も成績が低迷していた。マンデラはキャプテンのフランソワ・ピーナール(マット・デイモン)を官邸に呼んで激励する。ピーナールは、それが“ワールドカップ優勝”の意味であることを的確に察知する。大統領の熱い期待を担った選手たちはトレーニングの傍ら、黒人居住区の少年たちにラグビーを教えるなどのピーアール作戦を展開、いよいよワールドカップの開幕を迎える。予選突破も難しいという予想を覆して快進撃を続けるスプリングボックスの前に、ついに世界最強チーム、ニュージーランドのオールブラックスが立ちふさがる…。

先に結末を教えてしまうと、95年の決勝戦は、延長の末15対12でスプリングボックスが勝利した。この点数だけでも、この試合がいかに名勝負だったかが分かるというもののだが、オールブラックスはジョナ・ロムーとマーク・エリスという2人のトライ王を出しながら、最後の勝負に勝つことが出来なかった。それは実力以上の“運命の力”が働いたからである。

“INVICTUS”とはラテン語で不撓不屈のこと。映画中、マンデラがピーナールに渡す手紙に書かれていた言葉でもあるが、不撓不屈の人とは、ワールドカップを制した選手たちだけではなく、27年も投獄されながら、不屈の精神で耐え抜き、ノーベル平和賞を受け、最後には大統領として祖国に尽くしたマンデラ自身のことなのである。

主演で製作総指揮のモーガン・フリーマンは、“伝記が映画化されるとしたら、誰に演じて欲しいか”と聞かれたマンデラが彼の名前を出したことから、会見が実現。すぐに映画製作を企画した。そして、『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』で2度組んだクリント・イーストウッドにジョン・カーリンの原作を元にした脚本を送ったところ、監督を快諾したという。

イーストウッドの演出は、いつも映画に濃密な空気を作り上げるのに長けているが、今回は特に感動を過度に盛り上げるのではなく、むしろ事実を淡々と描きつつ、登場人物の人間的な側面をていねいに拾いあげていく。映画のクライマックスは、実は勝利の瞬間ではなく、決勝戦の際に新しい南ア国歌<神よ、アフリカに祝福を>が歌われるシーンである。この感動を生み出すために慎重に配されている伏線のさりげなさ。さすがはイーストウッド。音楽の使い方も見事としかいいようがない。何度見ても涙が出る、感動の名作である。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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