映画の処方箋

Vol.113

『チェンジリング』

アンジー入魂の演技が感動を呼ぶ実話の映画化。

アンジェリーナ・ジョリーといえばハリウッドを代表するセクシー女優である。実生活ではブラッド・ピットの妻で、6児の母で、ボランティア活動にも熱心でと、本業以外の話題が先行している感があるが、みくびってはいけない。さすが名優ジョン・ヴォイトの娘、女優としても、リー・ストラスバーグの演劇学校で学び、『17歳のカルテ』で弱冠24歳でアカデミー助演女優賞を受賞した実力の持ち主だ。『チェンジリング』は、そんなアンジーの演技の上手さを改めて確認できる作品だ。

舞台は1928年のロサンゼルス。電話局で働くシングルマザーのクリスティン(アンジェリーナ・ジョリー)は、急病の同僚のために、9歳の息子ウォルターに留守番を頼み、急遽出勤することになる。仕事を終え、あわてて家に戻ったクリスティンだが、ウォルターの姿が見えない。警察に捜索を依頼したにもかかわらず、ウォルターは見つからない。失踪から5か月後、イリノイ州で息子が見つかったという連絡が入るが、クリスティンの前に現れた少年は別人だった。失態を認めたくない警察は、クリスティンの訴えに耳をかさず、かえって精神病院に閉じ込めてしまう。こうして本当の息子を取り戻すためのクリスティンの長く苦しい闘いが始まった…。

まず、この話が事実であることに驚く。1928年といえば大恐慌の前年。農業や鉄道や石炭産業の不振が積み重なって不況が長びき、株価の大暴落を生む下地が出来上がっていた頃だ。シカゴではアル・カポネが暗黒街の顔役にのしあがった時代で、アメリカ西海岸には、まだ西部開拓期の荒々しさが残っており、この映画に描かれたような警察の汚職と腐敗がはびこっていた。女性の社会進出にはまだハードルが高く、シングルマザーで電話局の主任に抜擢されたクリスティン・コリンズは、当時としては開明的な女性だったはずで、だからこそ警察を向こうに回して闘い続ける不屈の闘志を持ち続けられたのだと思う。

監督は当時78歳のクリント・イーストウッドで、フィルモグラフィーとしては『硫黄島からの手紙』と『グラン・トリノ』の間の円熟期に当たる。本作では特に暗さに焦点を当て、いつもより陰影の濃い画面を作り上げて時代色を出している(撮影監督は『ブラッド・ワーク』以来の名コンビ、トム・スターン)。また、アンジーを全面に押し出し、彼女のための映画に仕上げているところにベテランの風格を感じた。

この後、ストーリーは連続少年誘拐殺人事件(ゴードン・ノースコット事件として知られる)に発展していくのだが、映画はあくまで我が子を取り戻そうとする母親の闘いに焦点を絞っていて、見終わった後に、クリスティン=アンジーの母親としての強さと、強さゆえの悲しさが深く印象に残る。出演は、クリスティンを支えるブリーグレブ牧師にジョン・マルコヴィッチ、悪役ジョーンズ警部に『バーン・ノーティス』でブレークする直前のジェフリー・ドノバンら。

題名の『チェンジリング』とは“取り替え子”という意味で、妖精がさらった子の代わりに残していく醜い子のことを指す。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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