映画の処方箋

Vol.112

『ジュリエットからの手紙』

プレ・ハネムーンは大怪我のもと。

6月といえば、日本では梅雨のまっただ中だが、欧米では結婚に適した季節といわれ、ジューンブライドという言葉まである。この言葉の起源には諸説あり、最も有力なのが、6月(June)の名の由来となった古代ローマの神ユノー(Juno)が結婚生活を保護する女神で、この月に結婚するとユノーの加護が得られるから、というもの。もちろん、梅雨の日本にジューンブライドを浸透させたのは(チョコレート業界がバレンタインデーをチョコレートの日に変えたような)結婚式場業界の涙ぐましい宣伝戦略であったことは言うまでもない。

さて、ゲイリー・ウィニック監督の『ジュリエットからの手紙』は、そんなジューンブライドの季節に見るのにぴったりのハートフルなラヴストーリーである。

主人公は、名門<ニューヨーカー>誌の調査員をしている作家志望の娘ソフィー(アマンダ・セイフライド)。イタリア料理店を開店準備中の婚約者ヴィクター(ガエル・ガルシア・ベルナル)を誘ってイタリアのヴェローナへプレ・ハネムーンに出かけたものの、ヴィクターはイタリア料理の食材探しに忙しく、観光やオペラに行きたいソフィーをほったらかし。ついにソフィーは別行動を決めて観光に出る。ヴェローナの名所といえばジュリエットの館である。そこでソフィーは大勢の娘たちがジュリエットに宛てて恋の悩みを綴った手紙を書いている姿を見る。しかも、その1通1通に返事を書く“ジュリエットの秘書たち”がいた。彼女たちを手伝うことになったソフィーは、壁の穴から50年前に書かれたイギリス女性クレアの手紙を発見、志願して返事を書くことに。すると数日後、手紙に勇気を得たクレア本人(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)が孫のチャーリー(クリストファー・イーガン)を連れて現れ、50年前に別れた片思いの相手ロレンツォ(フランコ・ネロ)を探しに行くと言う。手紙を書いた責任もあり、クレアの恋物語を記事にすることを思いついたクレアは、二人の旅に同行を申し出る…。

映画に登場する“ジュリエットの秘書”は実在する。ジュリエットクラブ(Juliet Club)と言い、ヴェローナのジュリエットに宛てて送られてくる年間5000通もの手紙に返事を書いているという。映画はこの事実を元にして若い女性向きのラヴストーリーに仕立てたものだ。原題は“ジュリエットへの手紙”だが、邦題は逆に“ジュリエットからの手紙”として、ソフィーがクレアに宛てて書いた手紙のことを指すように変えている。彼女がいったいどんな手紙を書いたかはラストで明かされ、それが映画のテーマになっている。

一見、他愛ないラヴストーリーだが、旅先で婚約者と自分の視線が別の方向に向いていることに気づいたソフィーが結婚を考え直すところなど、ほろ苦い人生の真実を突いている。日本にも成田離婚という言葉があるように、不慣れな旅先では、うっかりボロが出ることもあるわけで、うかうかとプレ・ハネムーンに出かけてソフィーを失うことになるヴィクターは、気の毒というよりは、うかつだと言えるだろう。

映画の見所は何といっても今売り出し中のアマンダ・セイフライドの魅力と、ヴェローナ、シエナといった中世の面影が残るイタリアの古都と美しい景色。特にトスカーナ地方のきらめく陽光は、うっとうしい梅雨空の下で見ると一層輝いて見え、すぐにでもイタリアに飛んで行きたくなること請け合いである。

もっと見る

ライター 斎藤敦子のプロフィール

前へ次へ

HOMEへ戻る