映画の処方箋

Vol.103

『衛星生中継!第85回アカデミー賞レッドカーペット』

『リンカーン』の独走なるか?――今年のアカデミー賞を占う。

1月10日、第85回アカデミー賞のノミネート作品が発表になった。今年の最多ノミネートは、スティーヴン・スピルバーグ監督の『リンカーン』で12部門、続いてアン・リー監督の『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が11部門、その下にトム・フーパー監督の『レ・ミゼラブル』の7部門、デヴィッド・O・ラッセル監督の『世界にひとつのプレイブック』の6部門などが続く。

『リンカーン』は、奴隷解放の父と呼ばれるリンカーン大統領が、南北戦争終結を前に、停戦を遅らせてでも奴隷制廃止を実現しようとする姿を描いたもの。リンカーンをそっくりに体現したダニエル・デイ=ルイスが主演男優賞、大義のために苦渋の選択をする代議士のトミー・リー・ジョーンズが助演男優賞、リンカーンの妻のサリー・フィールドが助演女優賞にノミネートされた。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』は、乗っていた輸送船が嵐で難破し、獰猛なベンガル虎と同じ救命ボートで漂流することになった少年パイの数奇な運命を描いたもの。虎を始め、見事なCG技術で表現された幻想的な3D映像が見どころなので、脚色賞、視覚効果賞、美術賞、撮影賞など、技術系の賞に数多くノミネートされている。

『レ・ミゼラブル』は、もちろん世界中の舞台で上演された大ヒット・ミュージカルの映画化で、監督は一昨年『英国王のスピーチ』で監督賞を受賞したトム・フーパー(ただし、彼自身は監督賞のノミネートから漏れた)。ジャン・バルジャンのヒュー・ジャックマンが主演男優賞、ファンテーヌのアン・ハサウェイが助演女優賞で、作品賞を加えた主要3部門と、録音賞、主題歌賞などにノミネート。ただし、舞台からの転用で映画がオリジナルではないからか、なぜか作曲賞のノミネートは逸した。

『世界にひとつのプレイブック』は、妻に捨てられて自暴自棄になった男(ブラッドレイ・クーパー)と、夫と死別した女(ジェニファー・ローレンス)のエキセントリックな恋愛を描いたもの。監督のラッセルは前作の『ザ・ファイター』に続いて2度目の監督賞ノミネート。作品賞、監督賞、主演男女優賞と、父親役のロバート・デ・ニーロと母親役のジャッキー・ウィーヴァーが助演男女優賞にノミネートされたので、主要6部門全制覇の快挙を達成。宣伝上手なプロデューサーのワインスタイン兄弟がついているので、意外な穴馬になるかもしれない。

前評判は高かったのに、監督賞と主演男優賞から漏れて、貧乏くじをひいた感があるのが『アルゴ』のベン・アフレックだ。作品賞の他には、アラン・アーキンの助演男優賞と技術系の賞にノミネートしたくらいだし、どの部門も強敵揃い。終わってみたら無冠、なんてことにならなければいいが。

『アルゴ』同様、もっと入ってもよかったと思ったのがキャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』だ。さすがに作品賞と主演女優賞(ジェシカ・チャスティン)は抑えたものの、あとは脚本賞、編集賞、音響編集賞くらい。作品の持つ風格と迫力に比べて、ちょっと寂しい。

逆に、最も健闘したのがミヒャエル・ハネケ監督の『愛 アムール』で、作品賞、監督賞、主演女優賞(エマニュエル・リヴァ)、脚本賞、外国語映画賞と5部門にノミネートした。去年、『アーティスト』が主要部門を制して、アカデミー賞における外国映画の許容度をぐっと広げたとはいえ、あれはハリウッドを舞台にした無声映画。こちらはフランス語をしゃべる純粋なフランス映画(監督はオーストリア人)なのだから、アメリカの映画業界も開けてきたもの。

もう1本の注目作は、ベン・ザイトリン監督の『ハッシュパピー バスタブ島の少女』だ。昨年のサンダンス映画祭で審査員大賞と撮影賞、カンヌ映画祭でカメラドールなどを次々受賞してきた若手新人監督の長編デビュー作にして、監督を含む4部門ノミネートは立派。ハッシュパピーを演じたクワベンジャネ・ウォレスが史上最年少(6歳)で主演女優賞にノミネートし、最高齢ノミネート(85歳)のエマニュエル・リヴァと共に話題に。

また、日本の誇る世界的なアート・ディレクターで、昨年1月に癌のために死去した石岡瑛子が、その遺作となるターセム・シン監督の『白雪姫と鏡の女王』で衣装デザイン賞にノミネートされたのは大きなトピック。石岡は既にフランシス・フォード・コッポラ監督の『ドラキュラ』で同賞を受賞しているが、シン監督の全作品の衣装デザインを担当し、彼の映像世界と密接に関わってきた彼女の仕事が最後にまた報われることを心から願う。

では、最後に私の予想を。作品賞は『リンカーン』、もしくは同情票が集まるかもしれない『アルゴ』、監督賞は貫禄でスピルバーグ、主演男優賞は誰もリンカーンには勝てないからダニエル・デイ=ルイス、主演女優賞は迷わずジェシカ・チャスティン、助演男優賞は主演並の存在感だった『ザ・マスター』のフィリップ・シーモア・ホフマンか、何を演じても上手いトミー・リー・ジョーンズ、助演女優賞は歌も立派に歌ってみせた『レ・ミゼラブル』のアン・ハサウェイ、ではないかと思うのだが、さて?

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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