映画の処方箋

Vol.089

「ジュマンジ」

呪われたゲームは人生をやり直すためのパンドラの箱

テクノロジーの進歩は映画に様々な恩恵をもたらしたが、一番大きかったのはSFXの分野だろう。私はレイ・ハリーハウゼンのストップモーション・アニメが大好きだが、スティーヴン・スピルバーグの『ジュラシック・パーク』(1993)で恐竜がスクリーンの中を縦横無尽に駆け回るのを見たときは本当にびっくり仰天した。同じスピルバーグ作品でも『ジョーズ』(1975)のサメがぬいぐるみだったことを思うと、世界がまったく違ってしまったと感じたものだ。『ジュラシック・パーク』の2年後に製作された『ジュマンジ』も、コンピュータ・グラフィックスの進歩を踏まえて企画されたファミリー向けファンタジー映画で、1995年のクリスマス・シーズンに公開されて大ヒットした。

キリストの降誕という奇跡を祝うクリスマスは家族の絆を確かめるための大事な行事。欧米の文学や映画には、家庭の温かさや思いやりの大切さを描いた“クリスマス物”というジャンルがある。強欲な守銭奴スクルージの前に精霊が現れて改悛させるディケンズの小説<クリスマス・キャロル>が文学の代表とすれば、<クリスマス・キャロル>を翻案したフランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』が映画の代表だろう。『ジュマンジ』もまた、そんなクリスマス物の基本にのっとって製作されている。

物語は1869年に始まる。2人の少年が深夜、秘かに地中に埋めた謎の箱が、100年後にアラン少年(アダム・ハン=バード)の手に入る。箱には“ジュマンジ”と彫られたボードゲームが入っていた。アランは町で大きな靴工場を営むパリッシュ家の一人息子だが、気が弱く、近所の少年達にいじめられていた。その夜、両親が出かけた後、女友達のサラを誘ってゲームを始めたアランは、“5か8が出るまでジャングルで待て”という目が出た途端にゲームの中に吸い込まれてしまう。それから26年後。今は荒れ果てた屋敷に引っ越してきたジュディ(キルステン・ダンスト)とピーター(ブラッドリー・ピアース)の姉弟は、物置で古ぼけたボードゲームを見つける。何気なくゲームを始めると、巨大な蚊や意地悪なサルの群れが飛び出してくる。“ジュマンジ”とは、ゲームを終了させるためにゲームを続けなければならない、呪われたゲームだった。そしてピーターが偶然5の目を出すと、巨大なライオンと共に、26年間ゲームに閉じ込められていたアラン(ロビン・ウィリアムズ)が現れる。ジュディは、大混乱の町をすべて元通りにするには、アランとゲームを始めたサラ(ボニー・ハント)も加えた4人でゲームを続けなければならないと知る…。

ゲームが“上がり”になるまで、ジャングルの動物達が町中を暴走し、巨大なツタがはびこり、嵐が巻き起こり、地震で屋敷がまっ二つになり、と厄災が次第にエスカレートしていくのが映画の見どころ。厄災もファンタジーであり、SFXの見せ場でもある。ゾウが車を踏みつぶしたり、床が突然底なし沼に変わって人を閉じ込めたり、奇想天外なエピソードは何度見ても面白いし、ファミリー映画なので絶対に人が死なないから安心して見ていられる。

そして、この映画の核心はゲームが上がりになった後のエピローグにある。パンドラの箱から数々の厄災が飛び出した後、最後に“希望”が残ったように、呪われたゲーム“ジュマンジ”も、数々の厄災を吐き出しつつ、最後に気弱なアラン少年に人生をやり直すきっかけを与えてくれる。見終わった後で心が温かくなる、それもまたクリスマス物の大切な要素の1つである。

主演は、少年の心を持った大人を演じたら右に出る者はいないロビン・ウィリアムズ。『フィッシャー・キング』のホームレスになった元教授、『フック』のピーターパン、『ミセス・ダウト』の家政婦に変身する父親に続く、脂ののりきった時代のウィリアムズのための映画といっていい。そして、見逃せないのはジュディを演じたキルステン・ダンストだ。当時13歳ながら、エレガントな美しさが既に完成していることに驚く。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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