映画の処方箋

Vol.072

『ショーシャンクの空に』

何度見ても面白い、ハートウォーミングな脱獄映画

映画界にはクリスマス・ムービーといわれるジャンルある。昔ならばフランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』、ジョージ・シートンの『三十四丁目の奇跡』、新しいところでは、ペニー・マーシャルの『天使の贈り物』、クリス・コロンバスの『ホーム・アローン』など。クリスマスは家族でキリストの生誕を祝う日なので、家族一緒に楽しめる映画、ちょっぴりファンタジーの味付けがある映画が基本である。『ショーシャンクの空に』は、殺人犯、刑務所、虐待、脱獄と、家族向けとはとても言えない暗いテーマの並んだ映画だが、そこから醸し出される不屈の精神、友情の篤さ、夢を持ち続けることの大切さ、そして何よりも見終わったときの爽やかな感動が、甘いだけの感動映画よりも、クリスマスに見るのに、ぴったりではないかと私は思う。

まずはストーリーのおさらいから。主人公は殺人罪で終身刑となり、ショーシャンク刑務所に服役しているレッド(モーガン・フリーマン)。何度も仮釈放申請を却下されながらも、調達屋としてショーシャンクの生活に馴染んでいる。そこに、妻と浮気相手の男を殺し、終身刑を宣告された銀行の副頭取アンディ(ティム・ロビンス)がやってくる。他の囚人とは違う雰囲気の彼に興味を持ったレッドは、地質学の好きなアンディに、岩を砕くロックハンマーや研磨剤、リタ・ヘイワースのポスターを調達してやり、次第に打ち解けていく。ハドレー刑務主任(クランシー・ブラウン)に相続税を軽減する方法を教えてやったのをきっかけに、経理に強いアンディが一目置かれるようになり、やがては強欲なノートン所長(ボブ・ガントン)の所得隠しを手伝うまでになる。その一方で、当局に手紙を書き続け、刑務所内に立派な図書館を作らせてしまう。そんなとき、ショーシャンクにやってきた強盗犯のトミー(ギル・ベローズ)から、自分の妻と浮気相手を殺した真犯人が別にいることが明らかになる。アンディは無実の罪を認めさせようと所長に直談判に行くのだが…。

原作はスティーヴン・キングの短編小説<刑務所のリタ・ヘイワース>。リタ・ヘイワースとは1940年代に“ハリウッドのセックス・シンボル”と言われた名花で、刑務所内で上映されているのが彼女の代表作ともいうべき『ギルダ』である。当時は、オーソン・ウェルズと結婚していて、映画史的にはウェルズが監督した『上海から来た女』の方が有名かもしれない。ちなみに、アンディの独房の壁に貼られたポスターは、リタ・ヘイワースからマリリン・モンロー、ラクウェル・ウェルチへと変わっていく。いずれもその時代を代表するセックス・シンボルである。

監督のフランク・ダラボンは低予算ホラー映画『ヘルナイト』の製作助手として映画界に入り、83年に『スティーヴン・キングのナイトシフト・コレクション』の中の短編1本を撮ってデビューした人だから、元々キングとは関係が深かった。キングはホラーの帝王などと呼ばれているが、この『ショーシャンクの空に』や、ダラボンの監督第2作『グリーンマイル』、あるいはロブ・ライナーが映画化した『スタンド・バイ・ミー』など、非ホラー小説にも定評があって、それはつまり、人間の心理に卓越した観察眼を持っているということだろう。そもそもホラー映画に恐怖をもたらすのは、実は怪物や超常現象といったアイテムではなく、人間の心理の方なのだから当然といえば当然だ。

『ショーシャンクの空に』の登場人物たち、若気の至りで殺人を犯して終身刑になったレッドと、無実の罪で終身刑になった元銀行の副頭取アンディ。立場がまったく違う2人が、刑務所という閉ざされた空間で、永遠とも思える時間を過ごすうちに、出身や経歴や肩書きといった世間的な“飾り”が削ぎ落とされ、人間そのものとなり、魂と魂の触れあいによって友情を築いていく。そして、不屈の精神と知恵で、逆境をはねのけ、自分や仲間に不実であった者たちに復讐し、自由を取り戻す。映画は20年という長い歳月の間、2人の心がどのように変化していったかをじっくり描き込んでいる。よく見直してみると、“驚きの結末”に向けて、ダラボンの丁寧な演出がちゃんと伏線を施していることもわかってくる。師走の夜には、何度見ても発見のある、感動の脱獄映画を。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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