映画の処方箋

Vol.064

『ベッドタイム・ストーリー』

お伽話が現実に?――大人も楽しめるファミリー・ムービー

 “ベッドタイム・ストーリー”とは、男女がベッドに入って囁く甘い物語、では全然なくて(ディズニー映画なのだから、間違える人はいないだろうが)、ベッドに入った子供に親が語って聞かせる物語、つまりお伽話のことである。

 映画『ベッドタイム・ストーリー』の主人公は、ホテルのしがない設備係スキーター・ブロンソン(アダム・サンドラー)。姉ウェンディ(コートニー・コックス)が校長を務める小学校が廃校になり、彼女が就活でアリゾナへ行く間、息子パトリック(ジョナサン・モーガン・ハイト)と娘ボビー(ローラ・アン・ケスリング)の面倒をジル(ケリー・ラッセル)と交代でみるよう頼まれる。実は、スキーターの務めるホテルは、父マーティ(ジョナサン・プライス)が建てたモーテルだったのだが、経営が行き詰まり、将来スキーターを社長にする約束でホテル王バリー・ノッティンガム(リチャード・グリフィス、『ハリー・ポッター』シリーズのバーノンおじさん役で有名だが、この映画ではケンタッキーおじさんそっくり)に売り渡したという経緯がある。しかし、そんな約束はいつの間にか反故にされ、ノッティンガムの娘ヴァイオレット(テリーサ・パーマー)の今の彼氏で、やり手の支配人ケンドル・ダンカン(ガイ・ピアース)が次期社長候補になっている。と、ここまでが映画の発端で、ここから先は、現実のストーリーとお伽話のストーリーが混じりあって進行する。

 パトリックとボビーにせがまれて、スキーターが作り上げた“ベッドタイム・ストーリー”の第1話は<中世の騎士>。ノッティンガムが王様、ヴァイオレットがお姫様、ケンドルとスキーターが騎士で、王様が次期側近にケンドルを選んだためにスキーターはワニのいる池に身を投げて死ぬという、現実をファンタジーの世界に移しただけのしがない話だ。悲しいエンディングにボビーが猛反対し、王様が2人の騎士を競わせる話に変更。翌日、ノッティンガムが新しいホテルのコンセプトをケンドルとスキーターに競わせ、優れたプレゼンをした方を後継者にすると宣言。スキーターはお伽話が実現することに気づく。第2話は<西部劇>。フェラーリに乗った男にバカにされたスキーターは、カウボーイが馬のフェラーリを無料で貰うという都合のいい話をでっちあげる。が、ボビーがそれではつまらないと反論、悪漢に囲まれたレディを助けるという話を付け足す。翌日、フェラーリは貰えなかったものの、パパラッチに囲まれたヴァイオレット(モデルはパリス・ヒルトン?)を助けたスキーターは、子供達が作った部分のみが実現することに気づく。第3話<古代ギリシャ>、第4話<宇宙>とお伽話は進み、ついにプレゼン対決の日を迎える。さて、スキーターの運命は?

 主演はアダム・サンドラー。ジョン・ベルーシ、ダン・エイクロイド、エディ・マーフィらを輩出したコメディアンの登竜門的TV番組“サタデー・ナイト・ライブ”出身で、日本での人気はアメリカほどではないが、ポール・トーマス・アンダーソンの『パンチドランク・ラブ』や、ドン・チードルと共演した『再会の街で』での、一見普通だが、内に狂気をはらんだ男を演じると抜群にうまい。とはいえ、今回のスキーターは、サンドラーの地に近い、ちょっと間抜けな気のいい男である。

 監督はミュージカル版『ヘアスプレー』のアダム・シャンクマン。ダンサー兼振り付け師出身で、映画のリズムがとてもいい。お伽話と現実が違和感なく、シームレスにつながっていくのがその証拠だ。ユーモアにちょっぴり毒が効いているのは、シャンクマンのテイストだろう。この作品はファンタジーでミュージカルではないが、唯一、ケンドルのプレゼン場面にミュージカル演出が使われていて、歌って踊るガイ・ピアースが見られる(もちろん、こんなベタな敵役も珍しい)。彼の驚くほど上手い歌と切れのいい動きはファン必見である。感心したのは、脚本&演出の密度の濃さで、枝葉に思えたストーリーの細部も、きちんと本筋につながっていて無駄がない。さすがエンターテインメントの本場ハリウッド映画である。

 特にクライマックスで、オートバイに乗ったスキーターとジルが“ベッドタイム・ストーリーズ”の中をもう1度駆け抜ける場面には、作り手の映画愛を感じた。ここまでなかなか徹底できないものなのだ。意外に渋いサントラの選曲を含めて、大人も楽しめるファミリー・ムービーになっている。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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