映画の処方箋

Vol.048

『タイタンズを忘れない』

何も考えずに見ても感動する名作の仕掛け人。

アメリカの国民的スポーツは野球、アメリカンフットボール、バスケットボール、アイスホッケーの4つだと言われている。選手層の厚さといい、ファンの多さといい、それぞれが国技といってもいいほど人気のあるスポーツで、映画でもそれぞれ傑作があるが、中でも、刑務所の中で看守チームと囚人チームがアメフト対決するロバート・アルドリッチの名作『ロンゲスト・ヤード』、選手の引き抜きやオーナーとコーチの対立など、アメフト業界の裏側を描いたオリバー・ストーンの力作『エニイ・ギブン・サンデー』、不幸な境遇の黒人少年をプロのアメフト選手にまで育てあげた白人女性をサンドラ・ブロックが演じた感動作『しあわせの隠れ場所』など傑作が多い。それは、個人技だけでなく、集団をどう動かすかのタクティクスも重要なで、身体と頭脳を両方必要とする複雑なスポーツだからだろう。ボアズ・イェーキンの『タイタンズを忘れない』も高校のアメフト部を舞台にした名作の1本で、実話の映画化である。

1971年、公民権法施行後も人種差別が続く南部ヴァージニア州アレクサンドリアで、人種差別撤廃のため、州立TCウィリアムズ高校が、モデル校として白人と黒人の混成に再編成されることになる。ビル・ヨースト(ウィル・パットン)がヘッド・コーチを務めるアメフト部タイタンズにも黒人の生徒がやってくる。アシスタント・コーチに就任するはずだった黒人のハーマン・ブーン(デンゼル・ワシントン)は、教育委員会の決定で、突然ヘッド・コーチに任命される。実は1度でも試合に負けたらクビという暗黙の了解の下のことだった。黒人の下で働くことをよしとしないヨーストだったが、白人生徒の父兄からの懇願を受け、タイタンズに残ることにする。ブーンにとってもヨーストにとっても不利で困難な仕事の始まりだった。

ブーンは、いがみあう生徒達を合宿に連れだし、白人と黒人を同じ部屋に泊まらせ、お互いの話をするよう強制する。白人のリーダー格ゲーリー(ライアン・ハースト)と黒人のリーダー格ジュリアス(ウッド・ハリス)は、互いを知ることで、次第に打ち解け、強い絆で結ばれるようになる。カリフォルニアから編入してきた差別意識のないロニー(キップ・パルデュー)も加わり、タイタンズは一気に結束を固めていった。そして新学期を迎え、アメフト高校チャンピオンを決める戦いが始まった。チーム内では人種差別がなくなったものの、父兄の間には依然として根強い差別が残っていた。しかし、タイタンズが勝ち進むにつれ、次第に人種の垣根が取り払われ、町の人々がこぞってタイタンズを応援するようになっていった。しかし、いよいよ決勝戦を迎える前夜、思いがけない悲劇が起こってしまう…。

 監督のボアズ・イェーキンの演出も手堅いが、この映画のテイストを決定づけているのは、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーではないかと私は思う。ブラッカイマーは、最近では『パイレーツ・オブ・カリビアン』を大ヒットさせた名プロデューサーだが、元々は爆破とカーチェースがトレードマークのど派手なアクション映画で知られていた。それも半端じゃなく派手。火薬も大量なら、カーチェースでは車が空を飛び、ひっくり返ってクラッシュするというのがお約束だった。そんな彼が、火薬もカーチェースも封印した本作。それでもやっぱりブラッカイマーだなと感心したのは、ストーリーのわかりやすさだった。

現実には、人種問題ひとつとっても、コーチとコーチ、生徒と生徒、それに父兄が加わり、様々な問題が複雑に絡み合っていただろうが、映画では絡み合わない、絡み合わせない。起こった問題はその都度解決され、次の問題が起こる。だからストーリーは逡巡せず、直線的に進んでいく。しかも起こる問題が多いから、問題→解決がとてもスピーディなのだ。どんどん問題が起こり、どんどん解決する。だから何も考えずに見ていてもストーリーを踏み外すことがない。そのスピード感がさすがブラッカイマーなのだ。最近はテレビ界に活躍の場を広げているブラッカイマーだが、彼の成功の秘訣は、こんな裏技にあるのだと私は思う。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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