映画の処方箋

Vol.046

『天使の贈りもの』

クリスマスには奇跡が起こる。

 欧米にはクリスマス・シーズンになると放映されるクリスマス用の映画がある。キリストの誕生という大きな奇跡を祝う日だからか、物語に奇跡が使われているものが多い。19世紀イギリスの作家チャールズ・ディケンズの<クリスマス・キャロル>を元にした映画は無声映画時代から数十回もリメイクされているし、フランク・キャプラの名作『素晴らしき哉、人生!』のように、<クリスマス・キャロル>からアイデアを借りたものもあるが、家族で見るのにぴったりのお薦めは、「セサミストリート」の人気者マペットたちがマイケル・ケイン演じる強欲なスクルージ爺さんを改心させる『マペットのクリスマス・キャロル』。ディゲンズの原作はヴィクトリア朝イギリスの下層社会を活写していて、特に未来の幽霊がスクルージの末路を見せる場面は残酷で悲惨な描写が際立っているので(だから素晴らしいのだが)、子供には早いと思う人も、マペット版なら大丈夫。監督はマペットの生みの親、ジム・ヘンソンの息子のブライアン・ヘンソンだ。

 ペニー・マーシャルの『天使の贈りもの』もまた、家族で楽しめるクリスマス映画である。舞台はクリスマスを1週間後に控えたアメリカのとある町。聖マタイ教会のヘンリー・ビッグス牧師(コートニー・B・ヴァンス)は幼なじみのジュリア(ホイットニー・ヒューストン)と幸せな結婚をし、ジュリアの父親から教区を受け継いでいるのだが、教会は老朽化、寄付金も思うように集まらず、お説教にも自信が持てない。聖歌隊を率いるジュリアは、何とか夫の力になろうとするのだが、ビッグス牧師はかえって自信をなくしてしまう始末。一方、5歳の息子ジェレマイアには隣家に住むハキムという親友がいるが、両親がなく、祖母に育てられていたハキムがついに養子に出され、離れ離れになる危機に。いったいどうしたらいいのか、そんな牧師のつぶやきが天に届いたのか、牧師館の庭に空から男が降ってくる。それが自ら天使と名乗るハンサムな青年ダドリー(デンゼル・ワシントン)だった。おりしも、不動産屋ジョー・ハミルトン(グレゴリー・ハインズ)から、おんぼろ教会を建て直し、地域を再開発しようという計画を持ちかけられたり、保護観察中のビリー少年が強盗事件に巻き込まれ、犯人として逮捕されてしまったり、ビッグス牧師に難問が次々に降りかかってくる。ダドリーは牧師の秘書となって、天使の手引書を手に、何とか力になろうとするのだが…。

 『マペットのクリスマス・キャロル』同様リメイクで、元は1947年に製作されたヘンリー・コスター監督の『気まぐれ天使』で、天使はケーリー・グラント、牧師がデヴィッド・ニーヴン、妻がロレッタ・ヤングだった。つまり『天使の贈りもの』は、いわば黒人版『気まぐれ天使』なのである。もちろん、これには理由があって、それは『ボディガード』が世界中で大ヒットし、女優の仲間入りをしたホイットニー・ヒューストンのための企画、だからである。そのため、元の映画にはない要素が加えられている。それが“音楽”である。もちろん売りであるホイットニー・ヒューストンの歌、そして教会の聖歌隊の歌だ。ホイットニーはソロも素晴らしいが、聖歌隊のリードボーカルとしてゴスペルを歌う場面が特に素晴らしい。映画の町には雪が降っているが(撮影はニュージャージーらしい)、いかにも南部っぽい、ジャズやR&Bのルーツを思わせるソウルフルな音楽を堪能できる。

 そして、もう1つの見所は天使を演じたデンゼル・ワシントンだろう。今やすっかりおじさん化し、老眼鏡を掛けて登場したりする彼だが、この頃は42歳の男盛り。肌もピカピカで、絵に描いたようなハンサムだ。しかも、『戦火の勇気』の戦場の真実を追究する大佐とか、『クリムゾン・タイド』の核攻撃をめぐって艦長と対立する副艦長とか、アクション映画の正義派役を担ってきた彼には珍しい二枚目役だ。天使という人間離れした役(当たり前だ)がよく似合って、いつになく思いっきり軽い、お茶目な面を見せてくれる。『グローリー』や『マルコムX』といった黒人俳優のお手本のような正統派の道を邁進してきた彼だが、今になると、もったいなく思う。こんなデンゼルをもっと見ておきたかったなあ。そんなファンの望みも叶う、『天使の贈りもの』なのである。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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