映画の処方箋

Vol.031

『エリザベス ゴールデン・エイジ』

非イギリス人の描くイギリスの黄金時代とは?

5月12日に第63回カンヌ国際映画祭が開幕した。オープニング作品はリドリー・スコットの新作『ロビン・フッド』で、主演は『グラディエーター』で組んだラッセル・クロウである。日本にも中継された開会式の前に、今年の審査員の記者会見が行われた。あれ?何となくデジャヴな感覚。中央は今年の審査員長ティム・バートンだが、右端に座っているのはインド系の映画監督シェカール・カプールだ。さっきまでプレス上映で見ていた『ロビン・フッド』でレディ・マリアンを演じていたのはケイト・ブランシェットだから、これって、『エリザベス』の黄金コンビのカンヌ初登場では?

 アカデミー賞7部門にノミネートされ、シェカール・カプールに国際的な名声をもたらした前作『エリザベス』は、エリザベス1世が1558年に25歳で即位し、私欲を捨て、権謀術数渦巻く宮廷を掌握し、国王としてイギリスに君臨するまでを描いた映画だった。アカデミー賞では、同じ年に『恋におちたシェイクスピア』という強力なライバルがいて、残念ながら受賞の数では負けてしまったが、この年のオスカーはイギリスの同じ時代を描いた2作品が賞を独占した希な年だった。

 確かにエリザベス1世の時代は、イギリスが国家として成長し、その後の繁栄を決定づけた時期で、逸話が多い。海賊出身のフランシス・ドレークに率いられたイギリス艦隊が、スペインの無敵艦隊をアルマダ海戦で撃破して海の覇権を握り、“七つの海を支配する”大英帝国の基を築くと共に、文化的にもシェイクスピアが活躍し、イギリス文学が花開いた時期に当たる。だから、カプールが再びケイト・ブランシェットと組んで、『エリザベス』の続編を、というのは自然の成り行きだったろう。

 今回の『ゴールデン・エイジ』は1588年のアルマダ海戦に至る物語である。国王として揺るぎない権力を手中にしたエリザベスだが、王位継承権という意味で、スコットランドのメアリー女王(サマンサ・モートン)に脅威を感じていた。というのも、父ヘンリー8世が、エリザベスを産むことになるアン・ブーリンと結婚するためにローマ教会から離脱し、イギリス国教会を設立したという経緯があり、ローマ教皇はアン・ブーリンとの結婚を認めていない。エリザベスも父の政策を踏襲したため、フランス、スペインなどカトリックの大国から敵視されていた。特にスペインのフェリペは、メアリーを使って、エリザベスを王位から追い落とそうと画策する一方、無敵艦隊を集結させ、イギリスを一気に押し潰そうとする。イギリスに脅威が迫っている頃、エリザベスは新世界アメリカから帰った航海士ウォルター・ローリー卿(ウライヴ・オーウェン)と出会い、彼に惹かれていった…。

 シェカール・カプールは1945年に当時のイギリス領インド、現パキスタンのラホールに生まれた。20代の初めにイギリスで教育を受け、会計士として働き始めるが、すぐに仕事に幻滅、途中から映画に転職した。女優だった母親の血がうずいたのかもしれない。監督として独り立ちし、『女盗賊プーラン』などのインド映画を撮っていたが、『エリザベス』で国際的な監督となった。私がカプールから連想するのはプロデューサーのイスマイル・マーチャントである。マーチャントはジェームズ・アイヴォリーと組んで、『眺めのいい部屋』や『ハワーズ・エンド』などを製作したが、彼もまたインド人だった。アイヴォリーはアメリカ人、脚本のルース・プラワー・ジャブヴァラはポーランド系ドイツ人だから、あの20世紀初頭のイギリスの貴族階級を描いた作品の数々を作った名トリオにイギリス人は一人もいないのである。貴族社会の黄昏を執事の側から描いた『日の名残り』に至っては、原作者は日系のカズオ・イシグロである。外国人の目の方がお国柄がよく見える、ということはあるが、イギリスの場合は特に外国人を惹きつける何かがあるように思える。そして、その何かが生まれたのがエリザベスの時代だった。

 そして、やはり特筆すべきはケイト・ブランシェットである(ちなみに、ケイトはオーストラリア出身)。私が彼女の演技に脱帽したのは『ギフト』だったが、前作『エリザベス』では20代、『ゴールデン・エイジ』では(何と!)50代のエリザベス1世を演じ分けている、もう絶句である。一見、クールな感じを受けるが、映画祭のレッド・カーペットを上がっていく彼女は意外にお茶目で、まだまだ様々な演技の引き出しを持っていそうだ。絢爛豪華な歴史絵巻の中で、ジェフリー・ラッシュら名優に囲まれながら、きりりと威厳のあるエリザベスになりきった彼女はやはりすばらしい。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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