映画の処方箋

Vol.021

『エグゼクティブ・デシジョン』

緻密で豪快な、空のパニック映画

私は、飛行機に乗ったら飛行機事故の本を読むのを趣味としている。航空会社は機内で上映する映画から、空の事故および事故を連想させるものを一切カットしているほど気を遣っているのだから、あまりいい趣味とはいえないが、ちょっと揺れたりするとスリル満点。<墜落 ハイテク旅客機がなぜ墜ちるのか>という本を読んでいるときなど、客室乗務員から露骨に嫌な顔をされた。ただし利点もあって、事故原因に詳しくなると飛行機がなかなか墜ちないことが分かってくるし、常にシートベルトを締めていた方がいいのはなぜか、機内で携帯を使ってはいけないのはなぜかの理由が分かって“模範的な乗客”になれるし、搭乗時間が遅れても腹が立たなくなる。

『エグゼクティブ・デシジョン』は、そんな“空の事故”好きな私にぴったりの映画で、公開時に見ても面白かったが、公開から13年後の今、9.11を経た目で見ると、さらにドキドキ度が増して、スリリングな映画になっていた。

ロンドンで自爆テロが起こり、オーシャニック航空アテネ発ワシントン行のボーイング747型機がハイジャックされる。犯人はテロリストのナジ・ハッサン(デヴィッド・スーシェ)で、逮捕された仲間の釈放を要求してくるが、情報部のテロ対策専門家グラント博士(カート・ラッセル)は、飛行機には盗まれたソ連製神経ガス兵器が積み込まれており、米国を攻撃するのが真の目的だろうと推測する。8時間で飛行機は米国領内に飛来してしまう。大統領の選択肢は2つ。このままワシントンに着陸させるか、テロ防止のために撃墜するか。すると特殊部隊のトラヴィス中佐(スティーブン・セガール)が、NASAの開発したリモーラ(小判鮫)という輸送機でボーイング747にドッキングし、特殊部隊を突入させて犯人を確保するという驚くべき計画を提案する。こうしてトラヴィス中佐率いる特殊部隊はグラント博士と技術研究員ケイヒル(オリヴァー・プラット)を連れてリモーラから747へ侵入することなるのだが、その途中で誤って警報器に触れたために気圧が変化し、すぐに扉を閉めないと両方の機体が破壊される危険が生じる。ハッチの中に残っていたトラヴィス中佐は、仲間を救うために自ら扉を閉め、空中に吸い出されしまう。機内には隊長を失った特殊部隊員とグラント博士、ケイヒルが残される。彼らは無事747の乗客を救うことができるだろうか?

“エグゼクティブ・デシジョン”とは、最悪の場合、民間機の撃墜も辞さない大統領の決定を意味し、それが9.11のときに実際に検討されたことを知った今見ると、単なるエンターテインメント映画を超えた重みを感じるし、映画の設定自体、5年後の9.11を予告しているともいえるだろう。

脚本は『プレデター』『プレデター2』のトーマス兄弟だが、映画のテイストを決めているのは、何と言ってもプロデューサーのジョエル・シルヴァーだ。『リーサル・ウェポン』シリーズや『ダイ・ハード』シリーズで知られるアクション映画の雄で、この人が製作する映画には必ず、ど派手なカーチェイスがあり、車が空を飛ぶので有名である(今回はさすがにカーチェイスは出てこない)。映画の見所はスティーヴン・セガールがいなくなってから、次ぎ次ぎに降りかかってくる困難をいかに克服していくか。冒頭でカート・ラッセルが小型機の操縦を習っている場面がクライマックスへの伏線となっているところなど、プロットの作り方が緻密なうえ、これでもかこれでもかとサスペンスを盛り上げるのが、いかにもシルヴァー印である。

ポスターではカート・ラッセルとスティーヴン・セガールが同じ扱いになっているので、セガール・ファンは、“沈黙”シリーズのような展開になるかと期待していると、ご本人があっという間にいなくなってしまうから、がっかりするかもしれないが、改めてよく見たら、オープニング・クレジットで名前が出るのはカート・ラッセルだけで、セガールは名前さえ出てこない“友情出演”扱いだった。つまりはセガールの出演自体をストーリーのトラップにしてしまうという、いかにもシルヴァーらしい、豪快な“エグゼクティブ・デシジョン”なのだった。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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