映画の処方箋

Vol.013

『メン・イン・ブラック』

ルーキー登場

ウィル・スミスがトップスターになったのはいつの頃なんだろう? なんだか最初から大物感を漂わせていたような気もするが、私が彼という存在を知ったのは『私に近い6人の他人』だった。ニューヨークの画商夫妻が、南アフリカから来た顧客を招いて開いたビジネス・ディナーの夜、突然現れ、夫妻の息子のハーバード大学の同級生で、シドニー・ポワチエの息子だと名乗って、彼ら上流階級の人々をまんまと騙す青年を鮮やかに演じていた。それもストッカード・チャニング、ドナルド・サザーランド、イアン・マッケランというそうそうたる名優を向こうに回して一歩もひけをとらず、こんなに上手い黒人の新人俳優がいたのかと舌を巻いた。シドニー・ポワチエの息子だなんて絶対に嘘だとわかるのに、彼にそう言われると、そうかと思ってしまうくらい上手かった。

ウィル・スミスの顔と名前が一致したのは、次の『バッドボーイズ』だった。まだ兄貴分のマーティン・ローレンスの方がビリングが上で、ローレンスの弟分の刑事を演じて、(舌だけではなく)体の動きのいいところを見せた。この映画は監督のマイケル・ベイの、というよりはプロデューサーのジェリー・ブラッカイマー印――銃撃戦(銃は限りなく大きく、銃弾は限りなく多く)とカーチェイス(必ず車が多重衝突し、少なくとも1台は空中を飛ぶ)を限りなく詰め込んだ─―の娯楽作だから、演技というより体技があれば十分なのだが、それでもスタンダップ・コメディアンのローレンスとの掛け合いの面白さで見せてくれた。ウィルがグラミー賞を受賞した元ラッパーで、テレビのシットコムで人気者だったことや、父親が冷蔵会社のオーナーで、フィラデルフィアの中流階級で育ったお坊ちゃんで、子供の頃から頭が良くて、プリンスという仇名だったことを知ったのもこの頃だ。

ウィル・スミスがトップスターの仲間入りをしたのは(なぜか)大ヒットしたローランド・エメリッヒの『インデペンデンス・デイ』だが、トミー・リー・ジョーンズと共演した『メン・イン・ブラック』の方が彼の魅力が発揮されていると私は思う。監督は『アダムズ・ファミリー』のバリー・ソネンフェルドで、撮影監督出身らしい、クリアな映像の美しさ(特に室内の照明がすばらしい)が映画にA級感を出している。

原作は宇宙人にまつわる都市伝説を集めて作られたコミックブックだから、話はかなり他愛ない。不法移民(エイリアン)ならぬ異星人(エイリアン)を監視する秘密組織MiBのエージェントK(トミー・リー・ジョーンズ)は、人間に化けたセファロ星人を走って追いかけたニューヨーク市警の若い刑事ジェームズ(ウィル・スミス)を見込んで組織にリクルートし、エージェントJとしてコンビを組む。おりから、凶悪な異星人“虫”が農夫(ヴィンセント・ドノフリオ)の皮を被ってニューヨークに潜入、ユダヤ人の宝石店主に化けた友好的なアルキリアン星の王族を殺して“銀河”を奪おうとする。KとJはニューヨークの死体安置所に急行。宝石店主の死体の中から現れたアルキリアン星人が最期に遺した言葉“オリオンのベルト”の謎を解き、農夫の皮を被った“虫”が“銀河”を奪うのを阻止し、宇宙の平和を守ろうとする…。

見所はコミックブックをそのまま映像に移したところだろう。さすがに撮影監督出身だけあってソネンフェルドの演出にはまったく違和感がない。人間と宇宙人が混在するMiBという組織自体も可笑しいが、様々なエイリアンのキャラクターや、いろんな有名人が実は異星人だったという楽屋落ち的なギャグ(続編には故マイケル・ジャクソンも登場)が楽しい。そして、やっぱり映画の成功の鍵は、渋いトミー・リー・ジョーンズと軽妙なウィル・スミスのコンビの魅力だろう。J役は、実は黒人ではなく、白人の俳優を使う予定で、クリス・オドネルらが候補になっていたというのが今では嘘のようだ。この作品でもウィル・スミスは『バッドボーイズ』同様、トミー・リー先輩の懐にするりと入り込んで、先輩の渋さを利用して自分を引き立てつつ、先輩も引き立てるという超絶技巧を発揮している。近年は独り立ちして、エディ・マーフィもサミュエル・L・ジャクソンも抑えて黒人スターのトップに立つ大活躍の彼だ(その意味では、本当にシドニー・ポワチエの跡継ぎである)が、その人なつこさと嫌みのない明るさは、ピンよりトミー・リー・ジョーンズのような強面のベテランの横に立っている方が輝くように私は思う。今は40歳を越え、先輩として立てられる立場になったろうけど、ウィル・スミスにはエージェントJのようなルーキー役がよく似合う。『ハンコック』もいいけれど、やっぱり『メン・イン・ブラック』が一番だ。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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