アカデミー賞2016 88th Academy Awards

コラム&レシピ

映画評論家 斎藤敦子のコラム「映画の処方箋」

2016/03/11 UP
アカデミー賞結果
レオ悲願の初受賞だけではなかった今年の授賞式の見どころ。

2月27日の夜、ハリウッドのドルビー・シアターで開かれたアカデミー賞授賞式。結果は、私が固いと予想した3賞(主演男優、長編アニメ、外国語映画)は予想通り固かったが、『レヴェナント: 蘇えりし者』が予想外に強く、監督のイニャリトゥは2年連続、撮影のルベツキは3年連続の受賞となった。意外にも『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が大いに気を吐いて技術関係の賞をほとんど独占し、最多6部門受賞。そして、最高賞にあたる作品賞には、私の願いが叶ってインディーズ系の『スポットライト 世紀のスクープ』に栄冠が輝き、終わってみれば非常にバランスのとれた結果になった。

さて、今年最大の注目はレオナルド・ディカプリオ初受賞なるか、だった。19歳のときに『ギルバート・グレイプ』で助演男優賞に初ノミネートして以来、ノミネート5回目にして初のオスカーを手にしたレオは、さすがに何度もリハーサルしてきたからか、あるいは名優だからか、少しも動揺をみせずに壇上にあがり、感謝の言葉と地球温暖化防止のアピールを述べた。むしろ、最前列で目に涙をためて喜んでいたケイト・ウィンスレットの方が感動的だったかも。これで史上最多受賞作『タイタニック』で唯一ノミネートから外れて以来ケチのついたレオとアカデミー賞との関係も修復されるに違いない。………《 続きを読む

2016/01/29 UP
アカデミー賞ノミネート
世界で一番有名な映画賞の行方を占う

新年に入ってあわただしくなるのが映画賞レース。そのトリを務めるのが世界で一番華やかで有名な映画賞の米国アカデミー賞だ。1月14日に第88回アカデミー賞のノミネートが発表になったので、その顔ぶれを見ながら、賞の行方を占ってみよう。

今年、最もノミネート数の多かったのは『レヴェナント:蘇えりし者』で12部門だった。昨年『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で4冠を制したメキシコ人のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが、またも名撮影監督エマニュエル・ルベツキと組んで最多ノミネートを獲得したのは驚きで、それだけイニャリトゥの演出力が優れているということだろう。『レヴェナント:蘇えりし者』は熊に襲われて重傷を負い、荒野に置き去りにされたハンター(レオナルド・ディカプリオ)が、壮絶なサバイバルの果てに自分を置き去りにした冷血な仲間(トム・ハーディ)に復讐するという物語。さすがに2年連続での監督賞、撮影賞はないだろうが、レオナルド・ディカプリオの主演男優賞は固いだろう。………《 続きを読む

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2012/01/06 UP
第67回脚本賞『パルプ・フィクション』
タランティーノ映画の“悪文”を楽しむ。

クエンティン・タランティーノほど衝撃的な登場をした映画監督はいないだろう。私が彼の映画を初めて見たのは1992年のカンヌ映画祭でコンペ外招待作品として『レザボア・ドッグス』が上映されたときだった。サンダンス映画祭での評判をひっさげてカンヌに乗り込んできたものの、ヨーロッパのプレスの反応は鈍く、彼の“ゴッドファーザー”モンテ・ヘルマンを従えての記者会見だったのに、全部で十数人くらいしか記者が集まらなかった。

だが、その後の活躍はめざましかった。まずは『レザボア・ドッグス』が世界中で話題になり、ほぼ同時に『トゥルー・ロマンス』をトニー・スコットが、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』をオリヴァー・ストーンが監督、それぞれ大ヒットとなり、たちまち世界の映画界をタランティーノ色で染めてしまった。1994年に監督2作目の『パルプ・フィクション』がカンヌでパルム・ドールを獲ったときには、2年前には閑散としていた記者会見場が立錐の余地のないほど人で溢れて、その鮮やかな出世ぶりに目が眩むような思いがしたものだった。………《 続きを読む

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2015/07/31 UP
第40回音響編集賞『特攻大作戦』
アメリカの男たちを泣かせる『特攻大作戦』のダーティな12人の野郎ども

8月には多くの戦争映画が放映される。これは終戦記念日が8月だということもあるが、ヨーロッパ戦線の転機となったノルマンディー上陸作戦が1944年6月6日に決行され、8月25日にパリ解放がなされたため、6月から8月にかけての夏を舞台にした戦争映画が多いからかもしれない。

ロバート・アルドリッチの『特攻大作戦』もまたノルマンディー上陸作戦の裏で行われた秘密作戦を描いたものだ。作戦自体はもちろんフィクションで、アルドリッチの名作『キッスで殺せ』の“鞄”同様のマクガフィンであって大した意味はない。意味があるのは、これが死に行くにも等しい決死の作戦であり、そのために軍法会議で死刑または終身刑になった兵士を選んで特攻隊を組織するという設定にある。

本部から命令を受けたウォーデン少将(アーネスト・ボーグナイン)は、軍規違反で悪名高く、転属先がなかなか見つからないライズマン少佐(リー・マーヴィン)に目を付け、隊長に指名する。少佐は、フランコ(ジョン・カサベテス)、ジェファソン(ジム・ブラウン)、ピンクリー(ドナルド・サザーランド)、ポウジー(クリント・ウォーカー)、ウラディスロー(チャールス・ブロンソン)、ヒメネス(トリニ・ロペス)、マゴット(テリー・サバラス)ら12人の囚人に訓練を施し、特攻作戦を決行することになる、というのがあらすじだ。………《 続きを読む

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2009/10/02 UP
第75回助演男優賞(クリス・クーパー)『アダプテーション』
嘘と真実の間にある、薄くて厚い壁

スパイク・ジョーンズを初めて見たのは、初監督作『マルコヴィッチの穴』が出品された1999年のヴェネチア映画祭だった。すでにビースティ・ボーイズやビョークのMTVを何本も監督して、その筋では有名な人だったらしいが、その筋にうとい私には、ただの新人監督という認識しかなかった。記者会見場に現れた彼は、“今どき感”漂うテクノカット(死語、その昔なら坊ちゃん刈り)で、会見半ばでデジカメを取り出すと、最前列に座っていた両親と自分の記念写真を撮り始めた。ヴェネチアの記者会見に親を連れてきたのはマット・デイモン以来だったが、会見そっちのけで楽しそうに記念写真を撮る姿はまるで新人類(これも死語)で、そのときに見た『マルコヴィッチの穴』の感想と合わせて、アメリカ映画界にも、こんなヘンテコな監督が生まれてくるようになったんだなと思った。この印象は今に至るまで変わっていない。

次に見たのは、デヴィッド・O・ラッセルの『スリー・キングス』に出演したときで、ジョージ・クルーニー、マーク・ウォールバーグ、アイス・キューブに次ぐ4人目の“キング”を演じていた。このときは役柄もあって、さすがに普通の青年に見えたし、2003年2月に『アダプテーション』を出品したベルリン映画祭の記者会見でも普通に見えたので、映画祭デビューだったヴェネチアの坊ちゃんスタイルが“扮装”だったのだと理解した。その頃には、ソフィア・コッポラとの結婚や、プロデューサーを務めたミシェル・ゴンドリーの『ヒューマンネイチュア』などの情報が入ってきており、彼とチャーリー・カウフマンを中心とする映画工房のようなものの存在が私にも明らかになっていた。………《 続きを読む

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2009/07/24 UP
第58回音響編集賞『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
25年前へのタイムトラベル

今から振り返ると1980年代は興味深い時代だったと思う。経済は、もうすぐバブルがはじけることも知らず、このまま右肩上がりの成長が続くと信じられていた。政治は、東西の冷戦状態が安定期をすぎ、ベルリンの壁が崩れる直前の最終段階を迎えていた。ベトナム戦争は過去となるも、新たにテロとの戦いが始まろうとしていた。『ブレードランナー』が活写したように、未来が必ずしもバラ色ではないことを、人々が薄々感じとり始めていた、“洪水の前”のあの頃。

映画界もまた地殻変動の時代を迎えていた。コンピュータ技術の発達で撮影方法に改革が起こり、特撮を主体とした新しいエンターテイメント映画が生まれようとしていた。新しい流れの牽引者であり、これからハリウッドを背負って立つことになるスピルバーグが製作総指揮にあたり、『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』(1984)でクリーンヒットを飛ばしたばかりのロバート・ゼメキスが監督した『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)こそ、新時代の到来を告げる1本だった。………《 続きを読む

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2015/10/30 UP
第55回 助演女優賞(ジェシカ・ラング)『トッツィー』より
“基本のフレンチドレッシングで作るトッツィーの野菜サラダ”
2色の無添加ドレッシングを作り置き!

売れない俳優マイケル(ダスティン・ホフマン)が女装してオーディションを受けてみたら見事合格。昼のTVドラマに出演し、女優トッツィーとして大人気に! 男であることを隠したまま、共演女優のジュリー(ジェシカ・ラング)と親しくなり、彼女の実家に招かれ1泊します。一緒に夕食を作っているときトッツィーが抱いていた友情は恋心に変わり始め、その後本来の自分を隠していることに耐えられなくなって…。今回の料理はあの夜にトッツィーが作ったサラダです………《 続きを読む

2011/09/09 UP
第62回作品賞、主演女優賞(ジェシカ・タンディ)
脚色賞、メイクアップ賞『ドライビング Miss デイジー』より
“パンプキンパイ”
「最高の友達」に感謝しながら食べたいデザート

アカデミー賞作品賞、主演女優賞ほか4部門受賞。お堅いユダヤ系老婦人デイジー(ジェシカ・タンディ)と、明るいアフリカ系運転手ホーク(モーガン・フリーマン)の、25年間にわたる絆の物語。最初は、運転手の運転する車に乗るなんて気が進まなかったデイジーでしたが、ホークの常に実直な態度に触れ、次第に心を許していき、2人は生涯の親友となります。年を取り手に力が入らないデイジーにホークがパンプキンパイを食べさせてあげるシーンでは、友情の底深さが伝わってきます。友達に感謝したくなるあのシーンのパンプキンパイをご紹介します………《 続きを読む